洋服という物は着やすいものと、そうでない物がある。メイド服は後者だ。
背中にあるファスナーが上げられない。


「まだですか?」
「も・・・う、ちょ・・・とぉ」


私がファスナーに手こずっていると、鬼灯様が声をかけてきた。


「ファスナーでも上がらないんですか?」
「いえ、大丈夫・・・です!」
「貸してみなさい」


大丈夫だと返したのに、鬼灯様は何の躊躇いもなくお風呂場へ入って来た。私はびっくりしてファスナーから手を離し、身構える。


「何入ってきてるんですか!?」
「ほら、背中を見せなさい」


鬼灯様に言われるまま、私は鬼灯様に背中を見せる。鬼灯様はファスナーに手をかけ上へ上げた。が、途中、指で私の背中をなぞった。


「〜っ!!」
「可愛い反応ですね」


いきなりの鬼灯様の行動に、私はビクッと肩を震わせた。後ろを振り返れば鬼灯様は口角を上げ、ニヤニヤと笑っている。


「何するんですか・・・」
「なまえさんの声が可愛くて、つい」


私は鬼灯様頭をを軽く叩く。この人はセクハラしかできないのか。鬼灯様は「痛い」と声を上げたが、絶対痛いとは思ってない。
鬼灯様は残りのファスナーを上げ、きっちりと背中を閉めてくれた。


「ありがとうございます」
「次はエプロンです」


白いひらひらとしたエプロンを鬼灯様が私の前へ差し出す。鬼灯様が持っていると、凄く似合わない。


「もう、自分でできますから…!」


私は鬼灯様の手からエプロンを取り、鬼灯様をお風呂場の外まで押していった。鬼灯様を外まで押しだし、扉を閉める。
手の中に残った白いエプロン。メイド服はここが難題だと思う。エプロンさえつけなければただの黒いワンピースなのだから。


「よっし」


また時間をかけていては鬼灯様が乱入して来兼ねないと、私はエプロンをつける。そして洗面台にある鏡で自分の姿をチェックした。


「うっ…恥ずかしい…」


予想以上にひらひらとしたメイド服はかなりの羞恥心を煽ってくる。服自体は可愛い。可愛いけれど…


「なまえさん?まだですか?早くしないと―――」
「わぁー!今出ます!」


鬼灯様の声に私は急いでお風呂場の外へ出る。鬼灯様は私の姿を確認して、頭の天辺から足の先まで視線を這わせた。目つきが危ないです、鬼灯様…


「よく似合いますね」
「ありがとうございます」


恥ずかしさのあまり、鬼灯様の顔が見れない。私は鬼灯様から視線を外し、自分の足下へ視線を落とした。


「では、それで明日は仕事しましょうね」
「は?!」
「メイドですから」
「私はメイドじゃありませんから」


何を言い出すんだろうか、この鬼は。と私は心底呆れた。


「良いじゃないですか。皆さん喜びますよ、きっと」
「嫌です。私は傷つきます」
「私も大喜びです」
「鬼灯様が楽しいだけでしょ!」


あぁ、もう脱ごう。さっさと脱ごう。今すぐ脱ごう。私はそう決めお風呂場に戻ろうとすると、私の手を鬼灯様が掴んだ。


「着替えてしまうのですか?」
「鬼灯様が変態なので」


心外だとでも言いたそうな顔で鬼灯様が私を見てきた。知らないですよ、そんな事!

「では、脱ぐのを手伝ってあげましょう」
「はぁ?ちょ、何するんですか!」


鬼灯様は軽々と私を抱き上げベッドまで移動する。ぽすんと私をベッドに投げると、私の上に馬乗りになってきた。


「え、ちょ、鬼灯様?!」
「一度やってみたかったんですよね」
「何を?!」
「コスチュームプレイ」

ちょっと待って下さい。誰が、いつ、そんな話をしましたか?そんな事を考えている内にスカートの中へ鬼灯様が手を入れて、太股をなでてきた。


「いつもと違う服装だと燃えます」
「本当に…やめっ」


本当に誰か助けてと、願いが通じたのか、鬼灯様の携帯が鳴る。


「鬼灯様、ほら携帯!」
「放っておきなさい」


鬼灯様は気にせず行為を続けようとするが、携帯は鳴り止むこおとはなく鳴る続けた。流石に鬼灯様も耳障りになってきたのか、テーブルの上に置いてあった携帯を取りに行く。


「逃げないで下さいね」


にっこりと私に釘を指してから。

鬼灯様は携帯を開くと電源ボタンを連打した。しかし、すぐにまた着信が鳴る。今の鬼灯様なら携帯ごと破壊するかもしれないなぁなんて見ていたら、本当に携帯を半分にしてしまった。


「さて、邪魔な携帯はなくなりました」
「本当に存在自体がね…」
「これでゆっくりなまえさんを虐め…着替えさせられますね」
「鬼灯様、もう本音がこぼれてますから」


じりじりと迫り来る鬼灯様の恐怖に私は少し涙目になった。そこで私はある事を考えつく。

「鬼灯様…そんな事すると…」
「?」
「もう一生、お願いなんて聞きませんからね」


涙で目をうるうるさせて、上目遣いで鬼灯様に訴えかける。一か八かの提案だけれど…


「涙目で上目遣いなんて…誘われてる様にしか見えないのですが」


あぁ、本当、この鬼、変態だ。改めて思った。


「嫌だって言ってるんです!」


私は鬼灯様の横をひらりと潜り抜け、出口の扉までダッシュした。鬼灯様より小さくて本当に良かったと思う瞬間。鬼灯様は私を捕まえ損ねた。
出口の扉を開けて、私は叫んだ。


「鬼灯様のへんたーい!」


そんな捨て台詞を廊下に響かせて、自室まで全力で走った。





改めて知った事

鬼灯様、こわい。




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