「ん〜!終わり!」



今日の仕事はこれにて終了。と、座ったままで固まった背筋を伸ばす。時計を見ればもうすぐ8時。


「鬼灯様…遅いなぁ…」


私は私用と言って出かけていった鬼灯様を思い出す。白澤様を殴りに行ったとしても、こんなには遅くならないはず。何処まで行ったかは分からないが、一足先に夕食にしようと思う。

私は食堂に行くために部屋から出ると、閻魔様にばったり会った。


「お疲れ様です」
「なまえちゃん、ご苦労様。鬼灯君帰ってきた?」
「いえ、まだですよ」


たわいない会話をして、閻魔様と食堂へ向かう事にする。閻魔様と一緒になるのは久し振りだ。

食事中も、昼間の件について聞かれたが上手く誤魔化しておいた。閻魔様が単純でよかった。



食事を終え、部屋に帰る途中、鬼灯様の部屋から物音が聞こえた。
帰ってきたのかと思い、私は昼間の謝罪をすべく扉を軽くノックする。
コンコンと軽い音が響き、部屋の中からは扉に近づく音が聞こえる。
少し、緊張してきた。


「はい」
「鬼灯様、おかえりなさい」


いつもの無表情で扉から出てきた鬼灯様に、私は笑顔で挨拶をする。鬼灯様は少し驚いた様で、瞳が揺れたのが分かった。
長年、一緒にいると表情が読める様になるものです。


「遅かったですね、心配しました」
「なまえさんに心配される程、年寄りではありませんよ」
「そういう意味じゃないですよー」


あははと声を出して笑えば、鬼灯様の顔も柔らかくなる。


「なまえさんに、お土産があるんですよ」
「?」
「とりあえず、中へどうぞ」


鬼灯様に促されるまま、鬼灯様の部屋に入る。いつも来ている部屋だが、今日は何となく緊張してしまう。


「お土産って何ですか?」
「はい、これです」


鬼灯様が私に差し出してきたのは、鬼灯様には似つかわしくないピンクの紙袋だった。中には綺麗にラッピングされた、袋も見える。


「え…」
「似合わないとか思いました?」
「頭でも打ったのかと…」
「正常ですよ」


余りのギャップに私は一瞬思考停止。失礼な発言をしてしまった。


「昼間の…お詫びです」
「へ?」
「怒ってしまったから」
「あ、いえ!私が言いつけを守らなかったのが悪かったので……すみません」


何だか微妙な空気にしてしまった。私は鬼灯様がくれた袋の紐をぎゅっと握りしめる。


「開けてみたらどうですか?」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」


そんな空気を変える様に鬼灯様が口を開く。私は紙袋からラッピングされた袋を取りだす。薄いピンクと白の不織布の袋に、真っ赤なリボン。リボンを解くのが勿体ないが、少し引っ張ればスルリとリボンは解ける。


「あ…かわいい…!」


袋の中には白いふわふわな毛並みのウサギ。の、ぬいぐるみが入っていた。丁度、桃源郷に居るような可愛いウサギだ。


「気に入ってもらえました?」
「はい!とっても!」
「それは、良かった」


私はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。本物と違い、温かさはないがふわふわな毛並みは最高の癒しである。


「でも、良く私がウサギ好きなの分かりましたね」
「桃源郷に行く度、抱き上げてたので好きなのかと」
「あぁ、成る程」


納得。流石、鬼灯様だ。
些細な行動でも覚えているあたり、洞察力が優れているのが分かる。


「それと…」


私がウサギをもふもふしていると、鬼灯様が歯切れ悪く口を開く。


「今度、一緒に出掛けませんか?」
「いつも一緒に出掛けてますよ?」


仕事中はいつも大体一緒に行動しているし、改めて言われなくても。
鬼灯様は私の態度が気に入らなかったのが少し声を大きくして改めて、言った。


「休みを取って二人で現世にでも、行きませんか!」
「…それって…」


デートですか?
私は声に出す前に、顔が熱くなるのが分かった。嬉しさと恥ずかしさが入り交じった感情が沸き上がり、今すぐにでも逃げたしたくなる。


「なまえさん…?」


一人で動揺する私を見かねたのか、鬼灯様が心配そうに声をかけてくれた。


「……嫌なら」
「いいいやじゃないです!」


鬼灯様の言葉を必死に否定し、首をブンブン振る。


「嬉しくて、ちょっと思考停止してしまいました」


余りの恥ずかしさに私は俯く。熱くて、熱くて、溶けてしまいそうだ。


「良かった」


鬼灯様はホッとしたのか、息を吐き出し、安堵の表情を見せる。柔らかい表情の鬼灯様は一段と格好いいと思う。


「楽しみにしてます。お出かけ…」
「ええ、期待してください」


私はウサギをぎゅっと抱きしめながら笑うと、鬼灯様も柔らかく笑って下さった。






ありがとう、の言葉

中々、言えないのです







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