花街が建ち並ぶ衆合地獄を、鬼灯はイライラしながら歩いていた。いつもは店先に鬼灯見たさに集まる女性が多いが、今日は通りかかる全てが視線をそらしていた。明らかに鬼灯の機嫌が悪い。
街の中歩いていると前からお香が歩いてくるのが見えた。お香も鬼灯に気付き声をかけてくる。
「あらァ?鬼灯様?」
「お香さん、こんにちは…少しお時間良いですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
鬼灯は丁度良かったと、お香を引き止めた。
お香は快く了承してくれ、立ち話も何だからと、近くの茶屋に入ることにした。
それぞれの注文をし終わると、鬼灯はさっそく本題に入る。
「その…なまえさんに…プレゼントをあげようと思うのですが…」
「あら!素敵ね!」
「女性はどんな物の方が喜ぶんでしょうか?」
「う〜ん…身に付けられるものなんてどうかしらァ?」
鬼灯が花街まで来た理由は女の獄卒が多い故に、女性の店が多く存在しているからだ。しかし、どんな物をプレゼントしたら良いのやら…。困っていた時にお香に出会ったという訳だ。
お香はにこりと笑い、鬼灯に提案する。鬼灯はうーんと唸り考える。
(髪飾りは被るから無し、装飾品自体、なまえさんはあまり着けないし…)
そんな鬼灯の様子を見て、お香は小さく笑う。何とも微笑ましい、鬼灯に似合わない光景だと思う。
「鬼灯様、そんなに悩まなくても。なまえちゃんは、鬼灯様からのプレゼントだったら何でも喜ぶと思いますよォ?」
女の勘とまでは言わないが、なまえの性格からも鬼灯からのプレゼントなら喜ぶはずだ。と、お香は推測する。
そんな話をしているうちに注文した甘味がテーブルに届けられる。それを見た鬼灯はパッと眉間のシワが消える。
「頂きましょう」
茶屋を出ると、夕暮れに空が染まり始めていた。周りの店も夜の顔へと姿を変え始めている。
「長々すみませんでした」
「いえいえ!この先の角のお店、女の子に人気のお店だから行ってみてください」
鬼灯はお香に深々と頭を下げ、お礼を伝える。お香はその行動に恐縮ながらも、鬼灯に店までの道を教えた。
「あ、それと…」
お香は思い出した様に鬼灯の顔を覗き見て、笑った。
「一番は、デートでも行く事じゃありませんか?」
「なまえさんとは、そんな関係ではないです」
お香の発言にサッと訂正を入れる鬼灯だが、瞳が少しだけ揺れた。
「男の人に遊びに誘われるのは嬉しいものですよォ」
「………」
「じゃあ、頑張って下さいねェ」
お香は色っぽい、怪しい笑みを浮かべながら仕事へと戻って行った。
(女性が皆同じとは限らないですが…)
鬼灯はお香の言葉を思い出しながら、先程お香に教えてもらった店へと足を向けた。
誰も知らない乙女心
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