私は急いで地獄への門をくぐり抜け、閻魔殿への道を走る。
「戻りました」
走ってきた焦りを隠し、平然と帰ってきた事を告げる。鬼灯様は書類を片付け終えたのか、閻魔様と話し込んでいた。
「なまえちゃん、おかえりー」
「あぁ、おかえりなさい」
先に気づいた閻魔様に続き、鬼灯様もこちらを向いて声をかけてくれた。
「お邪魔でしたね、また後程」
私はお辞儀をして、二人の会話を邪魔しないように、足早に鬼灯様の部屋へ向かった。
鬼灯様の部屋の薬草瓶の中に、先程買ってきたものを詰め込み、最終確認。
「チェックよし」
「ありがとうございます」
「ひゃっ」
頭の後ろから声がした。振り向けば鬼灯様が私の後ろに立っていた。私は距離を取ろうと後退るが、鬼灯様に手を掴まれる。
「お話は終わったんですか?」
「えぇ、大した話ではなかったので」
淡々とした日常会話。何故、手を掴む必要があるのか。私がその結論に至る前に口を開いたのは鬼灯様だった。
「その髪飾り…」
「…はぃ?」
私は背中に嫌な汗が伝う感覚を覚える。急いで帰ってきたため、髪飾りを外すのを忘れていた。白澤様に貰った事がバレたら鬼灯様が何をするか分からない。
「白澤さんに会いましたね」
「いや…」
「こんなものを桃太郎さんが持っている訳ないですし、白澤さんならなまえさんにピッタリな色も分かるはずです」
それは遠回しに似合ってると言う事でしょうか。
私は鬼灯様と視線を合わせられず、鬼灯様の背後に視線を泳がせていた。
「私に嘘をつくのですか?」
鬼灯様の目にキラリと嫌な光が見えた。このまま嘘を突き通せる訳無く、私は正直に答えることにした。
「白澤様が…他の女性にあげようとして、要らなくなったからと、くれたんです」
ほぉ…っと鬼灯様は目を細め、更に眉間のシワが深くなる。完全に不機嫌であることを示している。
「他の女性にあげようとしてた割には、なまえさんに似合いすぎです。そこがムカつく…」
鬼灯様の手にぐっと力が入るのが分かった。
「鬼灯様…手痛いです」
「あ、すみません」
鬼灯様は自分の手に力を入れていた事に気付き、私の手から手を離した。
その後短く思案し、くるりと扉の方へ方向転換した。
「少し出かけてきます」
「白澤様の所ですか?」
私の発言に鬼灯様はぴくりと肩を揺らす。
「私用です。ついでに白澤さんをボコッてきますが」
「お手柔らかに…」
鬼灯様はスタスタと部屋を出ていってしまった。私は携帯を取りだし、白澤様にメールを入れた。
鬼灯様が大荒れです
気をつけてボコられてくださいね
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