ちょうちょ、ひらり。
うさぎが、ひとはね。

ももが…たくさん。



桃源郷は今日も平和そのもので、何の変わりもなく時間が過ぎていく。
私はウサギの頭を撫でながら日向ぼっこ中。長い長い1日、少しぐらいぼーっとしても罰は当たらない。


「何してるんですか?」


そんな私に影を落としたのは桃太郎。仙桃の収穫をしていた途中なのか、背中には篭を背負っている。


「やあやあ、桃タロー君。元気?」
「なまえさんは元気そうですね」
「そうかな?」


自分の調子なんて分からないけど、悪くはないよ。うん。桃太郎は篭を降ろして私の隣に座る。


「さっき、白澤様が探してましたよ」
「あー…放っておけばいいよ。いつもの事だから」


だって仕事抜け出してきたからね。なんて、真面目な桃太郎には教えない。怒られるからね。


「仙桃の収穫は終わったの?」
「いや、まだですけど…」
「じゃあ、仕事に戻りなよ」


私はウサギを抱き上げて、もふもふと顔を埋める。ウサギは嫌がりもせず、私の腕の中に収まっていた。


「ウサギが可哀想ですよ」
「この子だって、嫌なら意思表示するさ」


あまりにもふもふと私がウサギを弄るので、桃太郎は注意をしてくる。
その内にウサギは私の腕の中からは跳ねて、地に足をつける。


「嫌みたいですね」
「……」
「ん?何んで…っいた!」


私は桃太郎の反応が気に入らず、顔をじっと見つめてからぎゅっと桃太郎の頬をつねる。

「痛い!痛いです!」

「口を慎めよ、桃太郎のくせに」
「なまえさん酷いっ!」


ぷにぷにとした桃太郎の頬が掴み易くて、つい引っ張りすぎてしまった。


「……ごめん…つい…」
「平気です」


桃太郎は痛そうに頬を擦りながら笑った。少しだけ赤く、私が掴んだ跡が残っている。


「ぷにぷにだね、頬っぺた」
「なまえさんだってぷにぷにじゃないですか」


桃太郎は私の頬を軽く摘まむ。痛くはないが、不服だ。


「はひふる…!」
「あはは!かわいー」


桃太郎は面白そうに私の頬を引っ張る。私は桃太郎の手を軽く払い除ける。


「白澤みたいな事いうな」
「え゛…」


それは心底嫌そうに桃太郎の表情は固まる。いつもは尊敬の眼差しで見ているくせに、女癖の悪い所に似ていると言われて微妙なのだろう。


「桃太郎も白澤の仲間入りか…」


哀れみを込めて、白い目で桃太郎を見つめてあげた。

「嫌ですよ!大体、俺は一途で…!」
「ほう、想い人なんかいるんだ」
「……っ!」


言葉に詰まった桃太郎は、見る見るうちに顔を赤くしていく。


「誰だい?いったい?」
「…教えませんよ!」


桃太郎は仕事に戻ろうと篭を背負おうとする。私は桃太郎に手を伸ばし、そのままのし掛かる。
不意に私の体重が加わることで、桃太郎はバランスを崩し、ドテッと倒れた。
私は桃太郎の背中に乗る態勢で桃太郎に問う。


「言わないとのったまま」
「勘弁してください!」
「だーめ」


にやにやと私は笑った。押しに弱い桃太郎の事だ、問い詰めれば言うに違いない。


「笑わないですか?」
「あぁ、笑わないよ…多分」
「多分?!」
「大丈夫、安心しろ」


ワクワクする気持ちを隠しきれず、私は桃太郎の背中を叩く。




「俺の想い人は……なまえさんですよ」




「?」




「なまえさん?」




「なまえ…」




「馬鹿を言うな」


思考停止してしまったじゃないか。私は先ほどの言葉を思い返し、顔に熱が集中する。


「私に好意を寄せる要素が分からない」
「…そう言う反応も傷つきます」


桃太郎は私に乗られたまま、はぁとため息を吐いた。

「まぁ、桃太郎くん…」
「はい」
「白澤に殺されるなよ」
「はいぃ?!」


桃太郎の声が裏返った。
白澤が私を助手として働かせている理由は考えた事が無かったのか。


「…私も、嫌いではないよ。桃タロー君」
「それって……!」


桃太郎の顔がパッと明るくなった。


「好きかは分からないから保留」
「……一番残酷だ」


桃太郎はがっくりと地面に項垂れた。汚れてしまわないかと思ったか、倒した張本人は私だ。


「…熟れるのを待とうよ、桃みたいにさ」



ちょうちょ、ひらり。

ウサギが、ひとはね。

ももが、たくさん。



桃色の頬が、一人。






薄く染まる

これからだよ







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長っ!中編にしようかとも思ったけど桃太郎夢って誰得wwwって思ったので一気に。書いてる本人はとても楽しかった。
桃太郎ぷにぷにしたい!っていうのを書こうとしただけだったんですが…
ヒロインがお気に入りです(笑)

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