地獄一の花街のある衆合地獄の一角に昼間だというのに、ベンチにだらりと寝そべりながらキセルをふかす男がいた。
「今日も不景気じゃ…」
キセルの煙はリンゴの形を作り、ゆらゆらと揺れる。
「檎ちゃん!」
そこに一人の遊女が店からひょっこりと顔を出す。まだ日も高い時間。毎夜の様に華やかな衣装ではなく、控えめで可愛らしい着物を着ている。
「なまえじゃねぇの。元気かい?」
「檎ちゃんも儲かってる?」
他愛のない世間話。
檎はベンチから起きあがると、空いた隣の席をなまえに進める。
その進めに素直になまえは腰を下ろす。
「いんや。ところで…」
「お金はないよ?」
「なんでぃ…」
ぷかりと檎が吐き出す煙が形を成す。ゆらゆらとお札を型どり、風にかき消された。なまえはその姿を見てクスリと笑う。檎が金を貸してくれというのはいつもの事なのだ。
「そいやぁ、なまえは何で花街何かで働いてるんじゃ?」
檎はふと、なまえに疑問をぶつける。
集合地獄は女獄卒の多い地獄、遊女などせずとも就職には困らない場所なのだ。
「単純に面白いからだよ」
「面白いって…」
予想外の答えに檎は眉を潜めた。
夢を叶えるためだとか、お金のためだとか、そう言う女には数多く会ってきた。しかし、面白いから、と答えたのはなまえが初めてだった。
「面白いじゃない!いろんな人間も鬼も妖怪も居て!知らない世界ばっかりだよ」
嬉々として話すなまえを横目に見て、檎はまた煙をぷかりと吐き出す。
その煙は狐の形になり、どこか悲しそうな顔で消えていった。
その煙を目で追って空を見上げた。
「…ワシの為にやめてはくれんかのぅ?」
「?」
檎はぽつりと呟く。
なまえは意味が理解できなかったのか、檎を見つめ首を傾げた。
「ワシだけに笑って欲しいのじゃが…その…」
檎は改めてなまえの顔を見ながら言う。最後は気恥ずかしくなってしまい、目を逸らしてしまった。
「檎ちゃん…!」
「うぉお」
その言葉を聞いたなまえは嬉しそうに笑い、檎の首に思い切り抱きついた。
「私、檎ちゃんのお嫁さんになるね!」
「なまえ…!」
ドキドキと鼓動が重なって、お互いに顔を見て笑いあった。
「ワシの台詞を取るなや…」
「へへへ」
檎は恥ずかしいのか、なまえの頭に手を乗せると、そのまま自分の胸の中に納めた。
消えない恋の話
夢を売る街で、
夢が叶っちまったなぁ
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本誌で檎ちゃんが登場した時から書いてた小説なんですが、コミックで登場したので上げてみました!!
檎ちゃんの口調が行方不明で困った(笑