※リクエスト没作品
黒い白澤様が降臨された









長い年月というのは、時に便利で、時に厄介なものだと思う。

地獄から注文の来ている薬を作っている間、なまえは上機嫌だった。もうすぐ鬼灯が薬を取りに来る、それが楽しみで仕方ない様子だった。僕はそんななまえの姿を見て、眉間に皺を寄せる。


「アイツの何処が良いのさ」
「白澤みたいにだらしなくない所」


即答。なまえは何の迷いもなく答えた。


「理解不能だね、僕の方がなまえの事好きなのに」
「白澤が好きなのは女の子全員でしょ?」


確かに女の子は好きだ。だが、それは「女の子」が好きなのであって個人ではない。僕がなまえを好きと言っているのは「個人」としてなまえが好きなのだ。


「あ、鬼灯!」


そんな事を考えていると扉がガタガタと音を立てて開いた。そこには鬼灯が立っており、それを確認するとなまえは、鬼灯に駆け寄った。
にこにこと鬼灯と会話するなまえを見ていると黒い感情が芽生えてくる。

面白くない。面白くない。

僕の方がなまえちゃんの事を理解しているのに。何であんな奴に惚れるんだ。僕の方がなまえちゃんを愛しているのに。何で。


「何です?白豚さん?」
「何でもねーよ。早く帰れ」


僕が鬼灯を睨んでいることに気づき、睨み返してきた。なまえの側にいるのは僕なのに。途中で現れたコイツなんかに奪われてなるものか。

鬼灯は注文してあった薬を確認すると、金棒に風呂敷をくくり付け、帰り支度をする。


「もう帰ってしまうのですか?」

それを残念そうになまえは見送る。

そんな顔しないでよ。アイツになんか、そんな顔見せないで。


「えぇ、白澤さんが怖い顔で睨んでいるので、退散しますよ。ではまた、なまえさん」


にこりとなまえに笑いかける鬼灯の顔がとても憎らしくて、いらいらした。

鬼灯が帰るとなまえはいつもの調子に戻って、眉間に皺を寄せている僕の顔を見て首を傾げた。


「…白澤、何でそんなに不機嫌なの?」
「知らない」
「?」


全く分かってない。
無自覚というのは怖いものだ。
なまえはテーブルの椅子に腰掛けると、次に作る薬のリストを確認し始めた。


「ねぇ、僕の事どう思ってるの?」
「は?」
「だって、もう何千年と一緒にいるのに振り向いてくれないからさ…」


さすがの僕でも自信を無くす。
僕はなまえの隣の椅子に移動し、なまえの顔をのぞき込んだ。


「何それ」
「なまえちゃんが好きだよ。この長い年月の中、誰よりも、一番、好きだよ」


なまえは一瞬困ったような顔をして、顔を赤らめる。僕の顔から視線を外して、小さな声で呟いた。


「白澤の事は好き、だよ」


たったそれだけの言葉の確認。それだけで僕は少し安心できる。でも、それだけじゃ足らないんだ。

僕のなまえになって欲しいと願う。
僕のものにならないのなら、壊れてしまえ。心も、体も、ぼろぼろになって、最後の最期に僕を選べば良かったと後悔するといい。


「それじゃ、嫌だよ」


僕しか見ないで。僕だけを見て。
口に出来ない感情ばかりが沸いて出てくる。僕は口からこぼさない様に最低限の言葉だけを紡いだ。
その言葉にさらになまえは困った顔をする。その顔が僕は好きで、もっと困らせたいと思ってしまう。


「どれだけ言葉を重ねたって、そんなの無意味だよ。私が白澤の隣に居るのは白澤が好きだから。それじゃ不満なの?」


確かに言葉なんて不確定なものより、なまえが一緒に居てくれるという現実を見るべきなのだろう。


「だって鬼灯の事、好きだろ?」
「鬼灯は良き友達としてだよ」
「…うそだ」


誰がどう見ても、なまえが鬼灯に好意を寄せているのは分かる。楽しそうな笑顔も、弾む声も、僕に向けられるものとは別のものだ。


「じゃぁ、白澤は私を、私だけを愛してくれるの?」


なまえからの問いに、僕は一瞬考える。そして、にっまりと口角を上げて笑う。


「…うん、なまえが望むなら」


なまえが僕を愛してくれるなら、他の女の子なんて必要ない。僕の心はなまえで満たされるからね。
それに、なまえが望むなら僕はどんな事だってするよ。欲しいものがあるなら手に入れてあげるし、気に入らないやつがいるなら消してあげる。


「それこそ嘘だよ」


なまえは悲しそうな顔で笑った。
僕が考えている事は全部お見通しの様で悲しそうに笑っていた。


「じゃぁ、試してみようよ」


僕はなまえの瞳をじっと見つめた後、耳元に唇を寄せて、なまえの頭を抱き寄せた。


「ね?僕のものになって」


低い声で囁く。

僕のなまえになって。
僕だけのなまえでいて。


「やなこった」


なまえは軽く息を吸い込むと、吐き出すように短く答えた。





恋心と嫉妬心

そんな悲しい顔しないで。







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リクエストの没。だって良くリクエストみたら「甘」って書いてあった!嘘だろぉおおこの話甘くねぇええ!!みたいな。

殺したい程愛してるっていう感情はとってもやっかいなもので、結局何も手に入らないのですよ。あと、そこまで一方的に好きだと相手に引かれるっていうね。

この話のヒロインちゃんはどっちかって言うと白澤も好きなんだけど、空気みたいな存在で恋愛対象にはならないっていう感じ?まぁ、白澤様の独白的部分が書きたかっただけなので、満足です。ありがとうございました。

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