三途の川のこちら側、つまり地獄側の川辺で泣いている鬼の子が一人。まだ幼い声でぐずぐずと泣いている。
鬼灯が先刻通りかかった時に泣いていたのだが、用事を済ませ、その帰り道に通って見たらまだ泣き止まず、一人泣いていた。
「いつまで泣いているんです?」
気になったので、声をかけて見ればその子は涙でぐちゃぐちゃになった顔を鬼灯に向けた。大きな瞳に涙が溜まり、またすぐにでもこぼれ落ちてきそうだった。
「ほら、行きますよ」
もう、日が暮れる。こんな場所に一人で置いておく訳には行かないと、鬼灯はその子の手を取る。迷子なら烏天狗警察にでも預けよう。
その行動にその子は涙を溜めた目を見開き、こてりと首を傾げた。
「鬼さん、私を食べちゃうの?」
「食べませんよ?あなたも鬼でしょう?」
「私は、鬼なの?」
「?」
問いに問いで返されて、鬼灯は首を傾げた。自分が何者かも分かっていないのか。子供の目に鬼灯が映る。その子はポツリと呟く様に自分の事を話始めた。
「私は母様に洞窟から出ちゃ駄目よって言われた。なのに気づいたら此処にいた。母様に怒られてしまう」
止まりかけていた涙が、また瞳を濡らし始めた。落ちそうになる涙を、鬼灯は手ですくいとる。
「あなたは、洞窟にどれぐらいいたのです?」
「分からない。お腹が空いたの、眠かったの。母様がお迎えに来るのを待っていた…」
大方捨てられたのだろう。鬼灯は目を細めると、子供の頭に手を滑らせ、膝を付き目線を合わせた。
「残念ながら母様は迎えにこれません」
「どうして?」
涙で濡れた小さな瞳が鬼灯をじっと見つた。鬼灯は少しでも言葉を選ぶべきかと思ったが、真実を話す。
「あなたは死んでしまった。そして、鬼になった」
「母様は来ないの?私は、どうしたらいいの?」
それは純粋な疑問。「死んだ」という事実を飲み込めているかはその子の反応を見る限り分からなかったが、母親が来ないという事実は分かった様だった。
鬼灯は立ち上がり、手を差し出す。
「一緒にお出でなさい。地獄での生き方をお教えします」
その声に答える様に、子供は鬼灯の手に自分の手を重ねて握った。
必然の偶然
昔は鬼灯様優しかった
何の話です?
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放置されてた小説を発掘。ここから連載にだな(無理