地獄の業火で焼かれようと、大釜で茹でられようと、動物たちに骨まで食われようと、「活きよ活きよ」と言われれば、全て元通りに戻って。最初から、やり直し。
苦痛だって与えられ続ければ慣れるし、もしかすると快楽へと変わって行くのかもしれない。

大釜の熱湯の中に浸かりながら私はそんな事を考えていた。もう、何百年この釜に入れられているのだろう。痛みも恐怖も、もう、無いに等しい。
ぐつぐつと煮えたぎるお湯に私の感覚は全て奪われており、何も感じる事は無かった。


(あ……)


釜の中から見覚えのある鬼の姿が見えた。黒い髪に一本角。黒い着物を着ている、此処では偉い鬼で、名前は鬼灯と言った。私が目だけで追っていると鬼灯と目が合った。


「苦しくはないのです?」


私が冷静に外を眺めていたので、鬼灯は私に声をかける。凛と澄んだ声で耳に残る声だなぁと私は思った。


「もう、慣れた」
「慣れた?」


聞き慣れない言葉の様に鬼灯は繰り返す。


「ずっとずっと此処にいる。苦痛だって与えられ続ければ慣れるさ」


私は軽く口を動かし、先ほど考えていた事の一説を鬼灯に向かって投げかけた。そうすると、鬼灯は眉間に皺を寄せて少し考える素振りを見せた。


「そうですが、そうすると処罰を考え直さないといけませんね」
「そんな事ができるのかい?」


裁判で決められた処罰を変えることができるなんて初耳だ。そんなに偉いのかと思っていると、鬼灯は私の側へ近づき私の顔をのぞき込んできた。


「えぇ、あなたにとって苦痛とはなんですか?」


突拍子もない質問に、私は面食らった。私が、楽な事を言ったらどうするのだろう?と思ったが、鬼灯はきっと嘘だと見破れるだろう。私は曖昧な答えをする事にした。


「さぁ、もう、良く分からないよ。死にもしないけど、生きてもいないからね」


どんな苦痛を受けても死にはしない。死ぬ苦痛と、死ねない苦痛は同等ではないだろうか。どちらにせよ、今の現状が変わることはないのだ。


「では、生きて下さい」
「は?」


鬼灯は訳の分からない事を言い出した。死んでいる亡者に対して生きろと言う。私は意味が分からず、首を傾げた。


「そんなぬるま湯の中にいないで、働いて下さい」
「…頭、大丈夫なのか?」


ぐつぐつと煮えたぎっている釜の中にいる私でさえ判断の付く発言。亡者に働けとはどういう事なのか。


「正気ですよ。あなた、頭が良いでしょう?」
「…そんなことは」


ない。
少しばかり理屈っぽく、少しばかり諦めが良いだけだ。だから無駄な事はしないし、こうやって地獄で罰を受けている。


「ちょうど補佐が欲しかったのですよ、なまえさん」
「…?!何で名前を…」


これまで鬼灯とは一度も言葉を交わした事はないし、鬼灯が私を見ていた事もない。唯一接点があったとするならば、閻魔大王の裁きを受けた時だけの筈だ。


「知っていましたよ、ずっと。私が来る度に私を目で追っていたでしょう?」
「自惚れるな」
「そうですか?まぁ、兎に角…」


鬼灯はわざとらしくとぼけた。そして私に手を差し伸べて…



昇進おめでとうございます

と、言ったんだ。







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にわか地獄知識使ってすみません(笑)何書きたかったんでしょうね?亡者との恋いが書きたかったんです!あうち!行方不明!

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