いつも通りの昼下がり、桃源郷は今日も暖かくウサギたちが仙桃の周りを跳ね回る。そして私は白澤様の周りを跳ね回っていた。


「ねぇ、ねぇ、白澤様〜!」
「…何?今、仕事中なんだけど」


白澤様は今日も格好いい。
薬草を煎じている白澤様の周りを私はうろちょろとしていた。それを邪魔そうに白澤様は避けていく。邪魔をしているつもりは無いのだが、白澤様は眉間に皺を寄せて実に迷惑そうな顔をした。


「じゃぁ、お仕事終わったらで良いのですが…」
「なまえちゃんにかまってる暇は一切無いよ……あ、いらっしゃい」
「……む」


店の扉が開いて女の子が一人入って来る。それを見た瞬間、白澤様の眉間の皺は消え、いつものヘラヘラとした笑顔に戻った。
白澤様が私を相手にしてくれないのはいつもの事だが、あからさまに態度が違うと傷つくものだ。女の子は軽く白澤様に口説かれた後、薬を受け取り店を出ていった。
私はその光景を少し離れた場所からじっと見ていた。


「冷たいです」


むっと頬を膨らませて白澤様に文句を言えば、白澤様は張り付けていた笑顔を消し不機嫌そうな顔をした。


「なまえちゃんに優しくした時なんてあった?覚えがないな」
「出会った当初は優しかったですよ」


そう、出会った時は白澤様に口説かれた。しかし、私が白澤様を好きになった途端これだ。落とすまでが楽しいというやつなのだろうか、まったく相手にしてくれない。


「大昔の話で忘れちゃった」
「じゃぁ思い出してください!あっつーいキスでむぐ」


私は白澤様に抱きつこうと手を広げ、そして唇を近づけたが、白澤様の手によって簡単に妨害された。


「やめて」
「ひほい」


白澤様の手で口を押さえられたので、上手く声が出せなかった。白澤様は私から手を離すと、仕事に戻っていく。
私も諦めて、部屋の隅の椅子に腰掛ける。私の定位置だ。




「はい、なまえさん」
「あ、ありがとう桃太郎君」


一通り騒いだ所で、桃太郎君がお茶を入れてくれた。私はそのお茶に口を付けてずずずっとすする。


「よくやりますね」
「うん?まぁ、ね」


いつも私と白澤様のやりとりを見ている桃太郎君は、少し呆れた様な口調だった。毎日毎日同じ事をしていればそれは当然の反応だと思う。


「あ、そうだ!夜、桃太郎君はお暇?」


白澤様が相手にしてくれないのなら、桃太郎君がいるじゃないか!と私は桃太郎君を誘う。


「まぁ、予定はないっすけど」
「本当!一緒に飲みに行かない?」
「………いいですけど…白澤様は…」


案の定、桃太郎君は了承してくれた。が、余計な心配もしてくれた。私はその言葉を無視して上目遣いに桃太郎君を見る。


「今日は桃太郎君と二人きりがいいな…」


私は桃太郎君の腕を取ると、ぎゅっと抱きついた。桃太郎君は顔を赤くさせて動揺している。


「…僕も花街に行くよ」
「白澤様には聞いてないですよ」
「…なまえさん?」


それを見ていた白澤様が口を挟んできた。私と白澤様の間で、バチリと火花が散る。桃太郎君は困惑していた。


「僕が振り向かないからって桃タロー君に手を出すのはやめてよね」
「別に、白澤様の代わりじゃないですよ。桃太郎君ともっと仲良くなりたいから誘ってるんです」


桃太郎君を更にぐっと私の方へと引き寄せる。しかし、白澤様が私と桃太郎君を引き剥がし、私の腕を掴んだ。


「……?!何ですか!」
「いいから、おいでよ」


そしてそのまま腕を引かれ、外へと連れ出される。桃太郎君はその場に置き去りにされ、固まっていた。




白澤様は私の顔なんか見ずに、仙桃の農園を歩いていく。流石に白澤様が何も喋らないので、私は白澤様に声をかけた。


「…私に振り向いてくれるんですか」
「違うよ」
「じゃぁ、離して下さい」
「嫌」
「何がしたいんですか?」
「………」


押し黙った白澤様の背中に、私は毎日の様に言う言葉をそっと贈った。


「白澤様、好きですよ」
「いきなり何…」


白澤様は私に振り向いた。そして、白澤様の声を遮るように、私は言葉を続けた。


「好きです。好きだから振り向いて欲しいし、やきもちを焼いて欲しいです、私のこと少しでも、一瞬でも考えて欲しいのです」


私はいつも心の中で思っている言葉を吐き出した。その言葉を聞いた白澤様は、少し戸惑った様な表情で頬を染めた。


「言われなくてもなまえちゃんの事しか考えてないよ」


期待していなかった答えに、今度は私が頬を染める番になった。好意か嫌悪か、その答えなど聞かずに、私の胸は高鳴った。


「嬉しい!!」
「あーもう!うるさい!」
「痛い!」


私は白澤様に飛びつく。背の高い白澤様の首にぶら下がる様な形で、白澤様の胸に飛び込んだ。白澤様は私の頭を掴んで押し退けようとする。


「照れないで下さいー!」
「うるさいなぁ!やっぱり嫌い!」


白澤様の抵抗を物ともせず、私は白澤様の胸にぎゅうぎゅうと頬をすり寄せた。照れてる白澤様もやっぱり格好いい。


これが平和な毎日なんだよね。






何時でも想っていて下さい

貴方しか見えません








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白澤様に嫌われる女の子がテーマでした。あれれ、何だかおかしいな…



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