雲はどんよりと空を覆い、風は冷たさを増す。人の往来は途切れる事なく、少し浮き足立った雰囲気に消えていく。
街は光の海に呑まれている。街路樹には電飾が施され、店先のショーウィンドウには赤い服を着た白髭の男と雪だるまが飾られている。どこからともなく鈴の音も聞こえてくる。
そう、街は「クリスマス」一色だった。
地獄で働く私にとって、それはどうでも良い事に過ぎない。西洋の文化など知らないし、第一、生誕を祝うなど…。
そんな事を考えながら歩いていると、ある店に目が止まる。
ショーウィンドウの中にはテディベアが見える。そのテディベアはふわふわの毛並みにつぶらな瞳。首には可愛らしくリボンが巻かれている。そんな茶色と白のテディベアが2体、仲良く肩を並べて居るのだ。
「か、かわいい」
私は思わず、べったりとショーウィンドウに釘付けとなった。
「欲しいのですか?」
隣からいきなり声が聞こえて来て振り返ると、そこにはキャスケットにマフラーを巻いた鬼灯様が立っていた。
「な!鬼灯様?!何してるんですか!」
「なまえさんが現世に行くのが見えたので」
「ストーカーですね、分かります」
じっとりとした視線を鬼灯様に送るが、鬼灯様はそんな視線を物ともしない様にショーウィンドウの中のテディベアをじっくりと眺めている。
「可愛いですね」
「ですよね!可愛くって!」
「買ってあげましょうか?」
「いえ、いいですよ、そんな!」
テディベアの横に置かれている値段表を見ると、結構な金額がする。そんなもの、鬼灯様に買ってもらう訳にはいかない。
「そうですか」
鬼灯様もそれ以上は何も言わなかったけれど、私は少し心残りにテディベアを眺めた。
「鬼灯様、帰りましょっか」
「そうですね、今頃大王様が瀕死になっている事でしょう」
「……後で大変なのは鬼灯様ですよ」
「大丈夫です。私が徹夜でちゃっちゃとやってあげますよ」
鬼灯様の顔から、一つも冗談と取れない言葉が聞こえたので、少し足を早くして帰路へつく。閻魔様が少し心配だ。
数日後。
閻魔様に頼まれた書類を鬼灯様に届けに行くことになった。今日は鬼灯様の非番の日。最近、徹夜続きだったためきっと熟睡中だ。
鬼灯様の寝起きが怖いともっぱらの噂なので、かなり怖い。でも、書類は今日中に至急チェックしてもらって。との事だった。
「はぁ」
鬼灯様の部屋の前で重いため息をつく。意を決してコンコンと鬼灯様の部屋の扉を叩くが、やはり応答なし。
仕方なく扉を開ける事にした。扉には鍵はかかっておらず、簡単に開く事ができた。
「鬼灯様ぁ?」
中に向かって声をかけるが、応答はなし。静かに部屋の中に入ると、鬼灯様の寝顔が見えた。とても気持ちよさそうに眠っている。
雑多とした鬼灯様の部屋は、いつ来てもいろんな物で溢れかえって居る。
その中に、見覚えのある物が見える。
ふわふわの毛並みに、つぶらな瞳。首には可愛らしくリボンが巻かれた、茶色と白のテディベア。
現世で見た、あのテディベアと同じ物が鬼灯様の机の上に座っていた。
私はそのテディベアの頭にそっと手を乗せ、毛並みを撫でる。
「…バレてしまいました」
「鬼灯様?!」
いつの間にか起きた鬼灯様が、ベッドの上で頭をぼりぼりと掻いていた。
「私も欲しかったので、買ってしまいました」
「あ、そうなんですね。でも、何で2体も…」
1体だけでもかなりの値段がした。それを自分の為に2体も買うのは鬼灯様らしくないと思ったのだ。
「引き離してしまっては可哀想だと思って」
「それもそうですね」
鬼灯様にしてはかなり可愛らしい理由だった。しかし、確かに2体、寄り添う姿がとても可愛らしいと思っていたので、私は納得する。
「ですが、私に2体も必要ないですね」
鬼灯様はベッドから起きあがると、私の隣に立ち白い方のテディベアを手に持つ。そして私に差し出した。
「なまえさん、1体引き取っては貰えませんか?」
「うぇ?!いや、そんな」
「持て余してるのでお願いします」
「はい」
鬼灯様は私の手の中にポンと白い子を渡してきた。私は返そうとするが、鬼灯様の手でやんわりと止められた。最終的には返事をしてしまったが、この子……
「でも、引き離してしまうのは」
「大丈夫ですよ、なまえさんと私が一緒にいれば、いつでもこの子達は会えるのですから」
あまりにも鬼灯様が自信たっぷりに言うので、私は何だか可笑しくて笑ってしまった。
「あはは、そうですね。いつでも一緒です」
運命の糸
何処に居ても繋がっている
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あれ?昨日からネタが…。鬼徹でどうにかクリスマスをしようと思って。