「この書類間違ってます」
「はい」
「ここの数字も間違ってますね」
「はい」
「あと……聞いてますか?なまえさん?」
「はい」


私は朝一番で鬼灯様に怒られた。目がいつもより細められ、眉間に皺が寄っているのを見ると、確実に徹夜明けだと言うことが分かる。


「……聞いてないでしょう?」
「はい…じゃなかった、すみません」


鬼灯様を観察しすぎて、返事が上の空になっていた所に鬼灯様がフェイントをかけてきた。鬼灯様は大きなため息を付いて、私に間違っている書類を手渡す。


「昼までに直して下さい」
「昼?!」
「昼までです。できない…なんて言いませんよね、なまえさん?」
「は、い」
「できあがるまで昼食も食べてはいけませんよ」


鬼灯様に睨まれて、否定できる訳も無く、私は頷く。鬼灯様は書類のチェックに戻られたので、私は書類を直すために鬼灯様の執務室を出た。





「終わんない!」


もう、時計の針はとっくに頂点を差し、傾き始めた。私は衆合地獄までやってきていて、書類の数字を確認中。


「ごめんねェ…新卒ちゃんが間違ったみたいでェ」
「いえ、大丈夫ですよ、お香さん」
「でも鬼灯様に怒られたでしょォ?」
「あぁ、いつもの事なので」


お香さんは書類の数字を直して、私に手渡してくれた。


「これで全部…かな」
「お疲れ様、気をつけて戻るのよ」

お香さんは優しく笑い、手を振って見送ってくれた。私もそれに手を振って答えると、私のお腹がぐぅと音を立てる。流石にお腹が空いてきた。
早く戻らなければ。鬼灯様にも怒られると、私は閻魔殿への道を急いだ。





「ただいま戻りました」
「遅い」


鬼灯様の執務室に入ると、鬼灯様が先ほどよりも疲れた顔で睨んできた。


「すみません」
「お昼を食べ損ねてしまいます」


私が時計を見ると、針は2時を指している。食堂は2時半までなので、早くしないと昼食抜きになる。


「鬼灯様食べてないんですか?」
「部下が仕事してるのに、先に食べる訳ないでしょう?」
「……それは、すみません」


こういう時は優しいな、と思う。鬼灯様は厳しいだけじゃないいから、嫌いになれないのだ。私は直した書類を鬼灯様に手渡し確認してもらう。


「ちゃんと直ってますね。では、昼食に行きましょうか」
「はい」


鬼灯様はサッと書類に目を通すと、判子を一押しする。そして、二人で昼食をとる事にした。




食堂には人は殆ど居なかった。私と鬼灯様を見た食堂の職員は「ゆっくりどうぞ」とにこりと笑ってくれる。鬼灯様がお忙しいのは皆承知なのだ。

鬼灯様とたわいない会話をしながら食事をとる。時折、鬼灯様は目を擦り眠そうな表情をしている。


食事も終わり、食堂を出ると鬼灯様はふらふらとしていた。


「鬼灯様、大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫です」


鬼灯様の口からは大丈夫だと出ているけど、見ているこっちからは全然大丈夫には見えない。


「ちょっと仮眠してください!」
「…書類…」
「私が見ておきます」
「なまえさんに見せた方が間違いが多い…」
「鬼灯様、寝ぼけてます?」
「いえ、正気ですよ」


私は執務室に戻ろうとする鬼灯様の手を引いて、鬼灯様の自室へと向かった。


「ほら、鬼灯様!」
「大丈夫で」
「寝ろ」


鬼灯様の自室の前まで鬼灯様を引っ張ってきて、鬼灯様を部屋へ押し込む。鬼灯様は、私の袖口を掴んで離さない。


「離して下さい」
「仮眠するなら枕がいります」
「あるじゃないですか、ベッドに」
「抱き枕が良いのですが」


鬼灯様は強く私を引っ張り、自室の中へと引き入れ自分の腕の中へと納めた。

「鬼灯様?!」


いきなりの事に私は声が裏返ってしまった。見上げれば鬼灯様は嬉しそうに私を抱きしめている。


「さて、寝ましょうか」
「いや、あの、書類が」


鬼灯様の腕の中に閉じこめられたまま、私は鬼灯様のベッドへ連行された。そして、ベッドにそのまま転がる。
鬼灯様はベッドへ入るとすぐに寝息をたて始めた。


「どんだけ疲れてるんですか」


その寝顔が何だかとても可愛くて、私も鬼灯様の腕の中で目を閉じた。




甘い夢を

鬼灯君〜?なまえちゃ〜ん?
2人とも何処に行っちゃったのかなぁ






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相変わらずの不調です。
鬼灯様の抱き枕出たら是非欲しいですね。誰か作ってくれないかな。

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