※45話微ネタバレ
余り分からないとは思いますが、ご注意下さい
「鬼灯様、受け取ってくれるかしら」
私の手の中には小さな包みが一つ。黒い包装紙に赤いリボン。ちょうど両手で収まるサイズのプレゼントボックスだ。
今日はバレンタインデー。地獄でももちろん、好意を伝える為に、女の子達は大奮闘する日なのだ。
「はぁ」
私は深いため息をつく。何故なら、私の想い人は鬼灯様。閻魔大王様の第一補佐官。その地位もあり、女性に大人気なのだ。
競争率は多分、地獄一。
「渡すだけでもできるかなぁ」
「何をです?」
「ひゃっ!」
背後から声が聞こえて私はびくりと肩を振るわせた。振り返ると、そこには鬼灯様が立っていた。手に金棒を持っているので視察から帰ってきた所だろうか。
「何を渡すんです?」
「鬼灯様…」
「それは…」
私の手に持ったままだったプレゼントボックスを見て、鬼灯様の眉間に皺が寄る。
「あ、いや、これは何でもないですっ!」
「チョコレートは禁止だと言ったでしょう?」
「はい」
そう、閻魔庁の中ではバレンタインのチョコレートは禁止されていた。私は鬼灯様に注意されしゅんとする。
「そこまでして渡したい相手がいるんですか?」
「………はい」
それは貴方ですよ。と心の中で思いながら返事をする。これで今年は鬼灯様にあげるのは叶わない夢となってしまった。こんな状態で渡す訳にもいかない。
「まったく。今回は見逃して差し上げます。ですが、仕事が終わってからにしなさい」
私は絶望に打ちひしがれていると、鬼灯様から信じられない言葉が聞こえた。鬼灯様が規則違反を見逃してくれるなんて。
鬼灯様はそのまま執務室の方へ歩いていってしまった。残された私は、手の中にある包みを見て、小さく唸った。
「うぅ…どうしよう」
仕事も定時の時間を迎え、無事に終了。私はチョコレートを持って、鬼灯様の執務室へと向かった。
「鬼灯様?」
部屋の入り口で声をかけると、中には鬼灯様が一人で仕事をしていた。
「あぁ、なまえさんどうかしましたか?」
「いえ…それ、チョコですか?」
鬼灯様の机の上には大量の包みが置いてあった。それはどれも綺麗にラッピングされており、チョコレートだと言うことが見て分かる。
「禁止と言ったのに…」
鬼灯様は呆れた様にその山を眺める。
「凄いですね」
「食べるこっちの身にもなって欲しいものです」
「ちゃんと食べてあげるんですね」
「それは、もちろん。心を込めて贈って下さったものなので食べますよ」
この大量のチョコを消費するのにはどれぐらいかかるんだろう。鬼灯様は甘い物が好きだったと思うが、これを食べるのは確かに一苦労だと思う。
「じゃぁ、もう一つぐらいお願いします」
私は持ってきたチョコを鬼灯様の前へ差し出す。これだけもらっていれば1つぐらい増えても差して変わりはないだろう。
「……!」
「不格好ですけど、味は大丈夫なはずですから」
鬼灯様は少し驚いた様な顔をして、私の手からチョコレートを受け取ってくれた。
「ありがとうございます、大切に食べますね」
いつもより柔らかい顔で鬼灯様は、多分、笑った。私はそれが嬉しくて、それだけで今年のバレンタインは成功だと感じた。
「お返しは…何が良いでしょうか…考えておきます」
「いえ、そんな!いいですよ」
受け取って貰えただけで十分なのに、お返しなんて頂けない。
「いいえ、なまえさんからのチョコ、とても嬉しいのでちゃんとお返ししますよ。リクエストとかあります?」
鬼灯様の好意を無駄にすることもできず、私は少し考え口を開いた。
「えっと、じゃぁ…」
たった一つのチョコ
特別ですよ
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