※極楽満月ヒロイン





「何これ…」


極楽満月のカウンターの上に、綺麗にラッピングされた数々の箱が山のように積まれていた。ブラウンとピンクを基調とした箱が殆どで、ハートの飾りも付いている。


「バレンタインだってさ」
「あぁ、チョコレートね」


毎年、白澤の元には大量のチョコレートが届く。私はあまり興味がないのだが、直接渡しに来る者、宅配で送ってくる者、と様々な様だ。


「朝からひっきりなしでね。僕、モテモテ！なまえちゃん焼いちゃう〜？
「そうだね、焼き殺してあげようか？」
「怖い怖い」


白澤はいつものだらしない笑顔で私の顔を覗き込んできた。私が一睨みすると白澤は肩を竦めて冗談混じりに笑う。
私は手近にあった箱を一つ取る。ピンクの包装紙に赤いリボン。そのリボンをするりと解くと中にはトリュフチョコが入っていた。


「あ、なまえちゃん、食べちゃ駄目だよ！」
「一つぐらいいいだろ？」
「いや、毒でも入ってたらどうするの？！」


チョコを掴んでいた私の手はそこで止まる。


「白澤…どんな恨みをかってるんだ」
「用心するに越したことはないよ」


私はチョコを入れ物に戻し、はぁとため息をつく。確かにこれだけあると好意ではなく悪意で送ってきているチョコレートもあるかもしれない。そんな女関係を築き上げている白澤も白澤なのだが…
そこで一つ、疑問を抱く。


「じゃぁ、このチョコレートの山…食べないの？」
「うん、全部捨てる」
「うわぁ…最低だな」


女の子達が一生懸命手作りした物だってあるだろう。それをきっぱりと捨てると言う白澤の思考はどうなっているのか。


「そんな事ないよ。ちゃんと美味しかったありがとう、って花でも渡しておけば女の子は喜ぶ」
「本当、最低」


その一言に女の子達は騙されるのか…。


「で、なまえちゃんはくれないのかな？」
「欲しいの？」


チョコを捨てる宣言をしておきながら、私に話を振ってくるとは思わなかった。私がびっくりして目を見開くと、白澤はにっこりと笑った。


「なまえちゃんからのチョコが欲しいの。だから、他のチョコは無意味なんだよ」


こんな台詞と簡単に言ってしまうなんて、本当に白澤はずるいと思った。


「……私のからのチョコこそ毒入りだよ」
「なまえちゃんからの愛だと思ってちゃんと食べる。用意してるんでしょ？」


何故、バレた。
確かに私はポケットの中にチョコレートを持ってきた。しかし、カウンターに積んであるチョコレートを見て、上げるのをやめたのだ。
白澤はにこにこと手を差し出す。私はその手をじっと見つめた。


「仕方ないなぁ」


一つため息を付いて、白澤の手の上にチョコレートを置く。白い包装紙に緑のリボン。包装も自分なりに白澤をイメージしてやってみたのだ。


「謝謝！」


そのチョコを嬉しそうに握りしめ、白澤は笑った。


「ホワイトデー楽しみにしててね」
「ん？お返しくれるの？」
「もちろんだよ！」


お返しを期待して上げた訳ではないので、お返しをくれると言うと少し戸惑ってしまう。しかし、嬉しそうな白澤の好意を無駄にする訳にもいかない。


「あー…じゃあ…」


私は少し考えて口を開いた。




君のチョコだけ

特別なんだ




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