春はあっという間に過ぎ去るものだ。
入学式があった次の日からオリエンテーションを挟み、何となく授業が始まる。ゆるゆると日常が進みだしていた。


バイト探しは難航し、お弁当を一緒に食べる程度の友達が出来たなまえは、予定もないままゴールデンウィークを迎えていた。


「暇だ…実に暇だ…!」


一人言が部屋の空気に溶けていく。昼まで存分に睡眠を貪り、現在3時。
日が伸びたとはいえ、6時には暗くなり始める。一人で出歩くには危険を感じた。暗くなったら家へ帰る、それが田舎の常識だからだ。

そんな時、携帯が音をたてた。サブディスプレイに表示された名前はお弁当仲間の一人だった。

内容は「他のクラスの子も誘ってご飯とカラオケに行かないか?」と言うものだった。なまえは暇をもて余していたし、友達をつくるチャンスだと了承のメールを送った。




夜は深まり、もうすぐ11時になろうとしている頃。暗い夜道の街灯が静かに地面を照らし出す。
なまえはズリズリと足を引きずりながら帰路へとついていた。
慣れないヒール靴で遊び歩けば当然だろう。
カラオケは思った以上にもりあがり、解散したのは10時少し前。流石に学生の身、警察のお世話になるまえに退散したのだ。
しかし、慣れない夜道。慣れない都会でプチ迷子になり通常20分程度で帰れる道をさ迷ってしまった。


(田舎なら一本道なのに…)


救いは街灯があることか。ため息を吐き出し、顔をあげるとアパートが見えてきた。
明日が休みで本当によかったと思いながらアパートの敷地にはいる。部屋のドアへ向かう途中、見慣れない物影が見えた。
それはちょうど自分の部屋の手前、隣の部屋のドアによりかかり……



「ひ、人…?!」



人影がドアの前にぐったりとしていた。金髪にバーテン服の男が、傷だらけで倒れていた。


(あ、平和島静雄…)


それは間違うことなく、一ヶ月前街中で見かけた男だった。


「あ、あの……」
「…う…」

恐る恐る声をかけたが小さく呻いただけで、反応が返ってこない。

(このまま放置はまずいよね?)


と、言うより良心が痛む。なまえは肩に手をかけて静雄の体を引っ張った。
どうにか引きずれそうだ。
田舎育ちをなめるなよ!と気合いを入れ、ズリズリと引きずり家へ入れる。


(死体を引きずる犯人って大変なのね)

そんな検討違いの事を思いながら、静雄を部屋に運び入れ、押し入れを探る。母親が用意していった薬箱があったはずだ。


深い切り傷がある。
絆創膏しかない。


「目が覚めるまでの応急措置だから、いいよね?」


幸い、出血は止まっている様だ。血を拭いて、消毒液をかけて、絆創膏。
絆創膏がなくなったが、おおよそ手当てができた。


「お布団かけて……よし!」


静雄を見下ろして、にっこりと満面の笑みをつくる。

(私は布団なくても平気でしょ)


幸い、寒さも和らぎ始めた季節。一段落して急に眠気に教われたなまえはそのままベッドへと倒れ込んだ。





偶然は必然に。

なんでこんな所にいるの?
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