暖かい風が頬を撫でる。
仄かな花の香が鼻をくすぐり、春という季節を感じることができる。


――――はずが、池袋という街では、そんな風はなくビルの間をビュウッと風が過ぎ去って行った。


(ああ、田舎に帰りたい)


上京4日目にはすでに高揚感はなくなり、実家が恋しくなっていた。


みょうじなまえ。今年の春から来良学園に入学するため池袋に一人上京してきた。
まだ入学前の春休み期間で、友達もいない。今日は新生活に必要な物を買いに出かけていた。


(アルバイト…探さなきゃなぁ…)


ぼんやりと歩きながら池袋の街を眺める。
自分の今までいた世界とはガラリと変わった大きな街。その中で一人ぼっちだと寂しさを覚えた。


(友達も早く作ろう…!)


そう決意をして大通りを外れ、家路を急ぐ。
まだ日が傾き始めた頃だが、暗くなっては慣れない街で迷子になりかねない。
その時…


――ガシャァアアンンンッッ!!!


金属が潰れる甲高い、そして鈍い轟音が辺りに響いた。
音が響いた先には自動販売機が宙を舞っていた。
自動販売機は重力に逆らう事なく、地面へと吸い寄せられ再び轟音を上げる。

その中心にはバーテン服に金髪の男が標識を手に持ち、その周りにはガラの悪そうな男達が数名いた。
周りのギャラリーは巻き込まれるのを防ぐ為、既に避難済み。


(なに?あれ?)


なまえは遠くからその様子を見ていた。
バーテン服の男は手に持った標識で周りの男達を蹴散らした。
それは一瞬の出来事。あっと言う間に周りの男達は地面に倒れた。


「平和島静雄だ…」
「化け物だ…」
「怖いわ」
「早くいこうぜ」
「化け物…」
「静雄だ」
「こえー…」


喧騒の中、ギャラリーは静かに口にする。
ひそひそと言う声が集まり、ざわめきを生んだ。
バーテン服の男、平和島静雄と呼ばれた男は手に持っていた標識を地面に突き刺し、サングラスをかけ、人混みに戻っていった。
ギャラリーの人混みもいつも通りの波になった。



(………)


自分には関係ないことだ、となまえも人混みに溶けていった。





池袋ってすごい街。

都会ってあれが普通なのかなー?
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