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「お、おおおっ男鹿っ!」
昼前の授業がようやく終わると、吃りながらも男鹿の机を前に立ちはだかったのは邦枝葵。
その様子に何だ何だと群がるクラスメート…古市に至っては口を開き二人を無言で凝視していた。


「…何?」
「ダブ?」
「お昼!い…一緒に食べない…?」
「は…?」


すると周りからは物凄い歓声がかかる。
「ヒューヒュー!」「嫁がすぐ近くにいるのにクイーンが勝負に出たあ!!」「愛人対嫁の対決かああ!?」

「うっさい!そーいうんじゃないから!そのっ…親睦を深めようと思っただけよ!」

邦枝はすぐさま野次を黙らせようと顔を赤らめながら抗議する。(それに意味があるかは別として。)

一方の男鹿はただ目を瞬きさせているだけ。
どうやら状況を掴めておらず、呆然とその光景を傍観者として見ているようだ。
ふと男鹿が隣を見るといつの間にやら古市は男鹿の横に移動していた。

「おい男鹿!!」
「何だ古市」
「お前、このっ…女たらしめっ!」
「はあ!?」
「何なの本当!…昼飯、邦枝先輩と食べるの!?」
「ん、ああ…食べるか」
「!?う、浮気か!?」

真顔になって迫る古市に男鹿は少々驚くもののいやいや、と変なものを見るような目で古市を見る。


「……あのさ、お前がホモでも俺は違うから、な?その言い方は…」
「男鹿くん、何を清々しいくらい勘違いしてんの?」

古市はすかさず男鹿に言葉を返す。


「ヒルダさんがいるのにクイーンに浮気かよ!って言いたいの!」

ね、ヒルダさん!と古市は男鹿の後ろの席にいるヒルダに顔を向ける。
ヒルダは何食わぬ顔をして言葉を紡いだ。

「構わん。坊っちゃまに害がなければそれで良い」
「…だ、そうだ古市くん」
「何か…冷めてんな…ヒルダさんはいいんですか?」
「良いと言っておろうが。さっさと二人で食べてくるがいい。…古市、お前は私と食べる、だろう?」
「え……もちろんです!」


まさかヒルダと二人で食べることができるとは…ましてや向こうから誘ってくれるとは、と古市は感動に浸りながらキリッと顔つきを変えて返事する。
すると「じゃあ私たちは屋上に行くぞ」とヒルダは古市の腕を掴んだ。
それをされることにより古市のかっこ付けた顔は直ぐ様崩れた。




「…ってヒルダさん、なんか痛い。痛いんですけ、ど…」
「む、すまん…」

廊下に出てすぐの場所でヒルダは古市から手を離す。古市は「いえ、大丈夫です」と笑顔を繕い、少し俯いたヒルダを見る。


ああ、何となく分かってしまった───

古市は「ははっ」と笑う。ヒルダはその様子を睨み、「何だ」と声を発した。


「いやー、ヒルダさんって意外と分かりやすいですね」
「は?」

ヒルダは訳が分からないとばかりに間抜けな返事をする。古市はそんなことは聞かなかったように「それはアイツもか」と独り言を吐いた。
古市は何が言いたいのかなんて分かる由もなく、ヒルダはただ首をかしげる。




すると古市は「あっれー、邦枝先輩は?」と口を開いた。
古市が声かける方へと首を回すとヒルダの後方からは男鹿が歩いてきていた。


「…俺は邦枝を入れて4人で飯食うつもりで言ったんだけど…」
「え?」
「お前ら二人で食べるとか言い出すし…何?俺ハブられてんの?」
「いや、そういう訳じゃねーけどよ…」
「とりあえずお前らが気になって気が気じゃなかったから邦枝にはまた今度、って言ってきた」



あっけからんと言う男鹿に古市は「お前っ!クイーンのお誘いを…!」と喚く。しかし、男鹿は古市をよそに隣にいるヒルダに視線を向けた。


「何、ムスッとしてたんだよ」
「いつもの顔だが?」
「ああ、ヤキモチか」
「はあっ!?自意識過剰も大概にしろこのドブ男が!!」
「…へー(棒読み)」
「ッ妬いてなどいないと言っておろうが!誰がお前と邦枝のことなんか!」


敵意丸出しの睨みを男鹿に向けるヒルダ。それを古市は苦笑いをしながら見守っている。


ヒルダさん…それは逆効果と言うものですよ

古市は心の声でツッコミを入れた。そう、これは逆効果。
その証拠に男鹿の口許は上に上がっている。



「分かった分かった。お前の気持ちは分かったよ」
「む…?」
「つまり、詳しく説明できちゃうほど妬いてたんだ」
「!?どうしてそうなる!!」


「だって、顔に書いてあるぜ?」



にやけた顔で話す男鹿にヒルダは顔を更にしかめると男鹿の鳩尾に一発入れて、その場を去るのだった。






お題は確かに恋だった様より



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