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「何してんだよ」




「…うるさい」


下校時刻───
いつもなら古市と二人でさっさと帰るが、今日は「ヒルダさんも一緒に帰りましょうよ」と言う古市の言葉により三人で帰ることになった。

俺と古市はすでに鞄を担いで帰る準備が万端の中、ヒルダは教室をうろうろし、辺りを見回していた。
それを見た古市はヒルダに明るく声を掛ける。


「何か探し物ですか?」
「む…まあ…そうだ」
「手伝いますよ。何探してんですか?」


何やら面倒なことになりそうだ。
今日はゲームをやる予定だったのに…と心の中で呟く。
まあ、ぶつぶつ言っていても時間は過ぎるだけと分かっている。一刻も早く探し物を見つけ出そう。



「探し物って何だよ?」
「…ハンカチだ」
「は?」
「ハンカチですか?」

うむ、とヒルダは頷き下を向く。
少し間が空いて顔を上げたヒルダはいつものポーカーフェイスで口を開いた。


「そこまで大したものではないが……
うん、だから…大丈夫。貴様らは帰れ」
「えっ!?いやいや、探しますって!」


唐突な言葉に古市が反対する。しかし、ヒルダは「帰れ」の一点張り。


「坊っちゃまも退屈してしまう。だから帰れ。一人で探せる。」
「…またベル坊か」
「たわけ。私の第一優先すべきことは坊っちゃまだ。分かっておるだろう」
「分かったよ!行くぞ古市」
「え、ちょっ」


離せ男鹿っ!と駄々こねる古市を無視して古市の腕を引く。

問答無用で学校の門を出て、ようやく古市の腕を離した。
解放された古市は「ったく」と悪態つきながらしっかり履けていない靴を履く。


「…良かったのかよ」
「…アイツが帰れって言ったんだから、良いだろ」


にらんでくる古市を横目に呟くように言ってみれば古市は「良くねーよ」と足を進める自分の前に立ち塞がった。
何だよ、としかめっ面をして古市に訴える。


「ベル坊の傍にいつだって居たいヒルダさんが探し物のハンカチを優先するって違和感ありすぎだろ!何か大切なハンカチだったんじゃ…」
「けど、帰れっつったのはアイツだ。ほっとけ」


立ち塞がる古市を避けて前に進む。
古市は、人でなし!鬼!悪魔!、と怒鳴りながらも後ろをついてくる。
悪魔はアイツだ。と無意味なツッコミは喉元で飲み込む。


「お前が探しにいけばいーじゃねーか」
「そうしたいけど今日は用事があんの!今からまた学校に戻るのは流石に無理!」



悔しそうに言う古市に盛大な溜め息を吐く。

「あー…忘れ物した」
「は?いきなりどうした?」
「ベル坊の哺乳瓶。多分学校にある。」
「…へー。…じゃ、俺は用事あるから帰るわ。」
「おー…」


足の向く方向を変え、少し小走りで歩き出す。
ほら、今のベル坊は大人しいけどお腹空いて泣き出したりしたら大変だろ?
別にヒルダは関係ない。…ついでだついで!

誰に言い訳しているのか分からないまま、小走りは次第にただただ走っているだけだった。



学校につき、教室のドアを開ける。
中に人はいなかった。


流石に諦めて帰ったのか、見つかったかのどっちかだな、と息を吐いたのも束の間。
ヒルダの席に鞄が置いてあるところを見るとまだ帰っていないようだ。


「そんなに大切なハンカチって何だよ…」
「ダー…」


肩にいるベル坊に聞いてみるがベル坊も首をかしげている。
そりゃそうか。

おそらく教室はしっかり探し終えたのだろう。



「…昼ん時、屋上って行ったっけ?」





◆◇◆◇◆


「…仕方あるまい。今日は諦めよう…」


「ああ!?もう6時ですが!?つか今さらか!」
「ダブダ!」


教室のドアを目一杯強く開ける。
ヒルダは鞄を手に取ろうとしたまま停まり、いきなりの怒声に肩を揺らして目を見張る。
一瞬、ポーカーフェイスが崩れたものの直ぐに戻り、「何故ここにいる」と言葉は放たれた。


「あー…えーっと…まあ、んな事はいいだろ。それより──…」


ほらよ、とヒルダに手渡したソレにヒルダはまたも顔を驚かせた。


「ハンカチ…」
「お前、屋上行かなかったのか?」
「行ってみたが…」
「屋上…つか、屋上に行く階段のとこにあった」

まあ、あそこは電気が取り換え中で暗いから見落とすのは分かるけどな。


「…で、何かねーのかよ」
「…今回は助かった。」
「他に言うことは?」
「──っ…礼は言うが、私は探せと頼んだ覚えはない!」


ヒルダはそう言うとベル坊を俺から剥ぎ取り、抱きしめる。
そしてスタスタ歩き出すヒルダ。俺はそれを後ろから付き添うように歩く。


「お前ほんと可愛げねぇな」
「…うるさい!」




─────────

「ところで、」
「…なんだ」
「なんでそのハンカチ、必死に探してたんだ」
「…お前のお姉様がプレゼントしてくれたのでな」
「…へえ(意外…)」





お題は確かに恋だった様より



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