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電気を点けないまま、暗闇の部屋でヒルダは重々しく口を開いた。


「魔界に帰ることになった。…世話に、なったな」
「は?」
「坊ちゃまは置いていく。私とは別の侍女悪魔が来てくれるからな」
「―ッおい!待てよ!!」


いきなり過ぎる展開に頭はついていかないが、「じゃあな」と自分に背を向けるヒルダを体が勝手に動き、後ろから抱き寄せるように引きとめた

「お…が?」

いつもとは違う、気迫のない声。
顔は見えないがどことなく曇り顔なのだろう。
そんな彼女をもっと強く抱き締めた。


「分かれよ!お前がいないと俺はッ」


気恥ずかしさと別れにたいしての悲しさが込み上げる。
喉が枯れたようだ。声を出すのが辛い。



「俺は…お前がいないと駄目なんだよ…」
「―…ッ」

情けない声を最後に空気は静まる。

どんなにお互いが憎まれ口を叩いていたってそれが愛情表現なんだから

ヒルダは声をあげて泣かない代わりに肩を震わせて嗚咽がただ聞こえるだけだった





「…大魔王様がな…戻ってこいと言ってくださったんだ」


心情が落ち着いたのか、ヒルダはぽつりぽつりと言葉を口ずさむ。


「何やら、私を頼ってくれているようで…嬉しい…ことな筈なのに…」


また肩が揺れ動く。
不安定な心情はお互いを酷く傷つけてやまない。



「…行くなよ」
「──…ご、めん」
「…分かってる…」


決まってしまったことは簡単に返ることなんてできないことくらい


「引き留めてくれて…嬉しかったんだぞ」



ヒルダは最後のその台詞を笑顔で発した。喜びと悲しみと苦しみが入り交じった、忘れられないような綺麗な笑顔で───…





だから今はただ、夢を見るんだ
明日にはいない君を想って





修正2012.1/20



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