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「…男鹿」
「ヒルダ…起きてたのかよ」
「悪いか?」
「起きてたならベル坊寝かせるの手伝えよな」


ようやくベル坊を寝かしつけることができ、自分も眠りにつこうと思った直後、ヒルダに声を掛けられたのだ

すると、ヒルダは目線をスッと男鹿から外し、窓を捉えた


「カーテンを閉めんのか、貴様は」
「今日は暑いから網戸なんだよ」
「それとカーテンは関係ないだろう……」


そこで小言を言いそうになるヒルダの口が止まり、ポーカーフェイスだった顔を緩める


「満月か…うむ、悪くない。何て言うか…心が落ち着く」
「けっ…ロマンチストか、お前は」

ヒルダの目線にある月を男鹿も眺めると確かに、綺麗に円を描いた満月が煌々と夜を照らしていた



「…ではな。満月を拝むことも出来たし、私もそろそろ寝る」


何やら上機嫌になったヒルダは足音静かに歩き出す
家族も寝静まった今、男鹿はあまり大声でない、普通より小さめに声を落として「ヒルダっ」と呼び止める

ヒルダは、足を止めて「何だ」と男鹿の方を向く
男鹿は「あ、いや…えーと…」としどろもどろに話す


「…私は寝る」
「待てヒルダ!…月!月が綺麗だな!」


スタスタと歩いていくヒルダを必死に引き留めようと言いたい言葉は焦るように吐き出された
ヒルダは、驚いた顔をして口を開くがすぐに声が発することはしなかった
代わりに顔はほんのり赤に染まりだす
そして少し間が空いてようやくヒルダは口を動かす


「…意味、分かっていってるのか…?」
「どうだろうな。けど、悪魔が知ってるんなら知ってるんじゃね?」
「……じゃ、私は寝る」


意外にも呆気ない。
ヒルダは直ぐにポーカーフェイスに戻ると男鹿に背を向け、歩き出す

もっとこう…何かあると思った期待は裏切られ、「それだけかよ」と男鹿はため息を吐く

しかし、次は男鹿がヒルダに呼ばれ、男鹿は「何だよ」と多少イラつきながら言葉を返してヒルダを見る
ヒルダは男鹿に背を向けていて男鹿は「?」と首をかしげる

「ヒル…」
「こんな夜なら、私は死んだっていい」
「は?」
「おやすみ」


ヒルダはそう片手を振って寝室に行ってしまった
男鹿はと言えば全く意味が分からず、首をかしげて呆然と立っていた

でも、不思議とそれが嫌なものには聞こえなかった───…




◆◆◆
夏目漱石の有名なアレと二葉亭四迷(?)のアレです。
一度使ってみたかった!



修正 2012.1/20



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