「杏里ちゃん」 「…何か用ですか、臨也さん」 いつものファー付きの黒コートを羽織った臨也さんが目の前ににっこり笑いながら立っていた しばらくお互いその場に固まっていると臨也さんが一歩近づいてくる それに私がびくっと体を強ばらせるのを見てか臨也さんは足を止めた 「そんな怖がんないでよ」 「怖がってません」 「はいはい、じゃあ逃げたりしないでよ?ただ話したくて会いに来ただけだから」 「私は話したくありません」 きっぱり言い放つと臨也さんは苦笑いを浮かべる 「どうやら俺は心底嫌われちゃってるんだね」 何も答えなかった 答えられなかった 嫌いなのはもちろんだがハイ、と頷くことはできなかったのだ 何故? 罪歌も、私自身も嫌っている筈なのに 「杏里ちゃん?」 「!」 不意に声をかけられ吃驚して臨也さんを見る 臨也さんは考え事をしていたせいで固まっていた私を不思議そうに眺めていた 「…さ、さよならっ」 「え!?ちょ、杏里ちゃん!?」 あの場にいたら いけない気がした 自分が臨也さんをどう思っているのか分かってしまう気がした いや、もう分かっているのかもしれない でも、まだその感情には気づきたくないのだ その想いはまだ、私には難しい そう自分で感情に蓋を閉めた |