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「私は…愛とか恋とかの感情が分からないんです」

唐突な杏里の言葉に静雄は少々沈黙を置きつつも「そうか」と相づちを打つ
杏里は下を向いていて、静雄はただただ杏里の様子を眺めていた

「でも…静雄さんが女の人と居たりすると胸が締め付けられるように痛くて…優しくされると嬉しくて…今、こうして話してるだけでも心臓がバクバク鳴ってるんです」


小さな声でそう話してから杏里は顔を上げ、静雄を見上げる
照れているのか頬を赤に染めながら

静雄はその様子が可愛くて思わず緩みそうになる顔を押さえつけ杏里の頭を撫でる
杏里はいきなり頭を撫でられて驚きと困惑を交差させながら「静雄さん?」と声掛けをする


「俺もだ」
「え…?」
「今、俺の心臓すげー鳴ってる」
「え、わっ!」


静雄は不意に杏里を自分の方へ引っ張り、抱き締める形をとる
いきなりのことで杏里は先程よりも赤面し、「あ、ああのっ、静雄さ…」と静雄の胸を押して小さな抵抗をとる
もちろん、無駄なことなのだが

暫くして落ち着いた杏里は先程とは逆に静雄に体重を任せる
偶然静雄の胸、心臓の近くに耳が当たりドクンッと跳ねている音がこだまする
同時に静雄の抱き締める力も強くなり密着度が増していく


「静雄さん、心臓の音がすごく聞こえます」
「当たり前だろ…?お前を抱き締めてんだから」
「…あ、静雄さん照れてる…」


静雄は「うるせえ」と杏里から顔を背ける

「…なあ、」
「はい」
「俺も愛とか恋とかいう感情はあんまり得意じゃねー…けど、」

こういうのを愛とか恋とかの感情って言っていいんじゃねーか?


静雄のその問い掛けに杏里は少し考えてから小さく、囁くような声で「そうかも、しれませんね」と呟いた











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