「…人、ラブ!俺は人間を愛してる」
「ッ!?ゴホッ、ゲホゲホ…」


しんとした部屋
カタカタとパソコンのキーボードを打つ音が鮮明に聞こえるなか、唐突に言われた今の言葉に驚き、むせかえる
あろうことかそれを言ったのは恋人である杏里なのだ
ソファーに大人しく座っていた彼女がいきなり、さっきの言葉だ
目を丸くして彼女を見返した


「杏里、ちゃん?」
「…」
「どしたの?いきなり」


杏里ちゃんは指摘をすると顔を真っ赤にして下を向いた
今さらになって恥ずかしくなったんだろう
うん、まあ…流石の自分でも今のタイミングでは、ちょっと恥ずかしいよね
スルーしておくべきだったね

微妙な空気が取り巻いてきてちょっと息苦しい

杏里ちゃんも黙り込んじゃったし仕方ない、と再び仕事に手をつける
ああ、早く仕事を片付けよう



「……臨也さん、のばか」
「なんでだい?」


また仕事に取りかかった時、ボソッと呟かれた台詞に疑問を返すと杏里ちゃんは下を向いていた目線を俺に向ける
今日、ようやくお互いに顔を直視したんじゃないかと嬉しくなる自分に対し、杏里ちゃんは眉を下げて口をへの字にしていた
どうやらいつの間にか不機嫌にしてしまったようだ


「…人ラブって何ですか。完全に浮気発言じゃないですか。しかも全人類って…ただの浮気どころじゃないですよ」
「え…?」
「それに…私もその中に含まれているんですよね。…不快です」
「ええ…?」

急すぎる怒りをぶつけられ、しっかりとした対応が出来ずにただ驚くばかり
だって、その台詞は俺の中での名台詞だし別に浮気発言のものではない…
杏里ちゃんも分かってはいる筈、だよね?


「杏里ちゃ…」
「嘘です。今の、忘れてください」
「……」
「すいません、今日ちょっと帰ります」
「…待ってよ。今日は用事無いんでしょ?」


帰ろう立ち上がった杏里ちゃんを引き留め、自分が杏里ちゃんの近くへ行き、もう一度ソファーに座らせる
自分もとなりに腰かけて



「杏里ちゃん、何かいつもと違くない?」


聞きたかったことをそのままぶつけると杏里ちゃんはゆっくり自分に寄りかかり、体重を預けてきた



「…た、のに」
「え?」
「せっかく、遊びに来たのに…構ってくれないじゃないですか」

…あー、何となく分かってきた

「…でも、仕事中にいきなりお邪魔した私が悪いから…それでもちょっとくらい構ってほしくて…我儘、ですけど」

だからごめんなさい、と目を伏せる杏里ちゃん

何その仕草、可愛いな…

髪を透くように撫でて杏里ちゃんの目をこちらに向ける
その目は少し透明の膜を張っていた



「あーあ、折角仕事頑張ってたのに」
「…ごめんなさい」
「俺、杏里ちゃんが来ること予想してなかったから仕事が山積みだったんだよね」
「すいません、迷惑かけて…」
「俺が君に構わずにずーっと仕事してた理由、分かる?」


涙ぐみながら自分を見る杏里ちゃんに微笑して聞いてみると「えっ?」と小声を出して少し首を傾げる
だから可愛いって、と言わない代わりにぎゅうーっと強く抱き締めてあげる
それに驚いてわたわたし始める杏里ちゃんをよそに言葉を耳元で紡ぐ


「早く君とゆっくり過ごしたかったんだよ。仕事が残ってると…俺はそこまで気にしないけど、君は気にしてすぐ帰っちゃうだろ?」


結局帰ろうとしちゃってたけど、と独り言のように呟く
杏里ちゃんは落ち着いたのか俺にもたれ掛かった


「こんな風にこじれちゃうなら、始めから構うべきだったね」


そうクスクス笑うと「だめ、です。仕事を優先するのが普通です」と口調を強くしだした杏里ちゃん


「はは、手厳しい」
「今日は…仕事が終わるまでここで待ちます、から」
「…お!?」
「私だって……イチャイチャしたいんです、から」


かあー、と音が付くくらい顔がみるみる赤くなり出す杏里ちゃんを横目で見て、自分も赤面する
そして、それを見せないように杏里ちゃんから顔を背けた


「あー…後、人ラブの中に杏里ちゃんは居ないから」
「…ど、ういう…」
「俺にとって君はただの『人』という存在じゃないからね、いろんな意味で」
「…」
「もちろん浮気発言でもないよ」
「…分かってます。でも、他の人に愛してるなんて…言ってほしく、ない…」
「今日は珍しく我儘だね。ああ、別にそれを嫌いとしてる訳じゃないよ、むしろ嬉しいくらい。だって我儘は独占欲の塊じゃないか。つまり、それくらい俺を好きなんだろう?」


にやにやと言い放つと「だ、黙ってくださいっ!」と口を手で塞がれた
もちろん杏里ちゃんの手首を掴んで簡単に口から手を離すのだが


「…っふう、どうせなら口で塞いで欲しかったな」
「ッ!うるさ───」


グッと杏里ちゃんを引き寄せ、次は「うるさい」と言う彼女の口を塞いだ



愛を受け入れて
優しく、優しく包み込むから





□□□□□
夏唄秋羅様!

「臨杏」とのリクエストでしたが…期待に添えているか心配です(汗
書き直し等、受け付けます!!
この度は素敵なリクエストをありがとうございました!

夏唄秋羅様のみお持ち帰り自由です!!


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