「プリクラ撮る?」
「え…っ?」

一瞬、もうこのまま帰っちゃうのかな、なんて気持ちがバレてしまったのかと思った。
あんなに楽しかったのに、離れたくないなって…。
西日のせいで、いつもより彼がまぶしく見える。

彼が指さした方向には、街中にあるものよりずっと静かな小ぢんまりとしたゲームセンターの一角があった。
知らず知らずのうちに、握った手に力がこもる。

これだけで私の気持ちは彼にバレバレだったなんて、この時の私には気付く余裕なんてなかったなぁ。

「…撮ろっか?」
「…はい!」






「人少ないね」
「きっと穴場なんですね」

プリクラ機の周りには、数えるほどしか人がいなかった。
センター街の方じゃ、プリクラ一機に女の子同士やカップルの列ができるのに。

「これぐらい僕が出すよ?」
「なっ、だめです!そんな、ここで沖田さんに貸しを…じゃない、お世話になるわけには!」

そんなやりとりをしている間に、彼はお金を投入してしまったようだ。

「あぁ〜…」
「いいじゃん、別に」
「だって…でも…お昼だって…」
「あのね、僕は彼氏なんだからそれぐらい当たり前、」

『写りを選んでね!』

「ほら、選べってさ。あれ?カウントされてる。あと10秒だよ、千鶴ちゃん早く」
「そ、そんな…じゃあおススメで」

『肌の明るさを選んでね!』

「明るさ?何それ」
「えっと…よく分からないので、おススメで!」
「君おススメばっかりだね」
「だって、プリクラなんて久しぶりに撮るから分からなくて…!」

『背景を三つ選んでね!』

「千鶴ちゃん、全部選んでいいよ」
「え、えっとじゃあ…」

『撮影するよ!ぎゅーっとくっついて!』

「くっついてってさ」
「え?え?どこ見れば良いんですか?」
「上だよ、上!」
「上?」

カシャッ♪

『こんな風に撮れたよ!』

「うわぁ…」
「って、千鶴ちゃん!見上げてるじゃんこれ!」
「だ、だって沖田さんが上って言うから!」
「そうじゃなくて、下のモニタじゃなくて上のカメラを見るってことだよ!」
「な、なるほど…!」
「なるほどって君ね…」

『二枚目を撮るよ!一生不滅、仲良しアピ〜〜ル♪』

「一生不滅かぁ…じゃあ千鶴ちゃん、僕と結婚しなきゃね?」
「ブッ」

カシャッ♪

『こんな風に撮れたよ!』

「ちょ、見てこれ!千鶴ちゃんの顔凄く面白いよ!」
「だ、だって沖田さんが変なこと言うから!!」
「もう、ちょっとしたジョークだよ」
「じょ、ジョーク…」
「ほら、次」
「……」

『三枚目を撮るよ!…』


ジョーク…。






『四枚目を撮るよ!』

プリクラ機のやけに甲高いアナウンスに、ハッと我に返った。
隣に並んでいる沖田さんが、ずいっと私の顔を覗き込んで、眉をひそめた。

「ねぇ、楽しくない?千鶴ちゃん、楽しくなさそう」
「そ、んなこと…」
「取り繕うったって無駄だよ?」
「……ちょっと疲れただけですっ」

思わずぷいっとそっぽを向いてしまった。
だって、私がさっきから上の空なのは、沖田さんが…。

「…沖田さんが、あんなこと言うから…」

カシャッ♪

『こんな風に撮れたよ!』

「ね、見てこのふくれっ面。可愛いね、千鶴ちゃん」
「……」

ちょっと黙りこんでみた。
だっていつも私ばかり、彼に踊らされている気がして。
なんだかちょっと、悔しいもん。

沖田さんってばいつも飄々として、冗談ばっかり言って私のことをからかうんだから。
私なんか、ジョークでもあんなこと軽く言えないのに。
軽く言えないぐらい、すっごく…大好き…なのに。

「…ねぇ千鶴ちゃん、キスしようか」
「へ!?し、しませんよ、こんなところで!」
「え〜チュープリ撮ろうよ〜」
「な、なんですかチュープリって…」
「チューしながら撮るプリクラ。略してチュープリ」

かーっと顔に熱が集まっていく気がする。
沖田さんがさっきよりも近い。

「だ、だめです」
「なんで?撮ろうよ、記念に」
「だめっ!」

だって、自分たちのき、キスシーン…が、写真になって…しかも、しかもシールになるんだから…。

「沖田さん…絶対人の目に着く所に貼るもん…」
「あ、バレた?」

『3、2、1…』

カシャッ♪

「…千鶴ちゃん、今日のデート楽しかった?」
「それは、勿論です!沖田さんとお揃いの服も買えたし、色んな場所に2人で行けたし…」
「そっか、そりゃ良かった。もしかして僕、千鶴ちゃんに嫌われてるのかな〜って思う時が時々あったからさ」
「え?どういうことですか?そんなわけないです!」
「だって千鶴ちゃん、時々冷たいじゃん。さっきみたいにそっぽ向いたりさ」
「!それは沖田さんがいじわるするからですよ」
「じゃあ僕のこと嫌いじゃないってことだ」
「そうですよ、何を言ってるんですか!…す、好き、ですからね」
「オッケー。じゃあさっきの話の続きね」
「え?」

『これでラストだよ!二人で一緒に、世界で一つのI Love You♪』

「将来、僕と結婚して下さい」
「…、また、そんなこと言って…」

ドキドキ、なんてものじゃない。

「…本気だよ」
「…う、うそ」

ドキドキよりも、もっと大きくて。

「嘘じゃない、本当だよ。信じて」
「……っ」

拍動が。
2人の、拍動が一つになったぐらい。

「……本気、ですよ」
「ん?」
「……私も、本気です」
「…うん、僕も本気だよ。そう言ってるじゃない」
「…じゃあ、いつかその時は、よ…宜しく、お願いします」
「こちらこそ。宜しくね」

『3、2、1…』




ドッ、という心臓の音が、シャッターの音をかき消した。




『これで撮影は終了だよ!落書きコーナーに移動してね!』

「…沖田さん」
「ん?」
「…チュープリはダメって言ったじゃないですかぁっ!」

そう私が抗議すると、沖田さんは驚いた顔をした。

「え?さっきのなんてチュープリのうちに入らないよ!口じゃないでしょ?」
「チューはチューですよ!」
「違うよ、さっきのはチュープリとは言わせない!」
「いいえあれはチュープリです!」

落書きコーナーに行ったは良いものの、お互いに譲らない口論は終わりを見せない。
ついには沖田さんがとんでもないことを言い出した。

「あぁいいよ、そこまで言うならもう一回プリクラ撮ろうか」
「ど、どういう意味ですか」
「本当のチュープリって言うのを教えてあげるからさ」
「!?な、なに言って」
「いいじゃん、将来の夫婦なんだし」
「そ、それとこれとは話は別ですー!!」
「おっと。今日一日、千鶴ちゃんの面倒見たのは誰かな?」
「…そ、それは…」

あぁ、まさか貸しがこんな所で引っ張り出されるなんて…。

「…仕方ありません」
「じゃあ撮ってくれるんだ」

おかしい。
心臓がおかしい。

「…惚れた弱みです」
「はは、そりゃお互い様」

なんだか私、昨日より一昨日より、沖田さんがずっと好き。
そんな気がする。




身体中が喜びで満ちていく


10th May 2012 // HAPPY BIRTHDAY To Riku!
遅くなってごめんなさいorz
(ERA/六条より)

おまけだ!受け取れ!ぽい(・ω・)ノ⌒゜






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