フィンクスとLINE

何度も寝返りを打ちながら、発光する板を見つめる。
そこには、可愛いウサギがニッコリ笑いながら「おやすみ」と言っているスタンプと、その横に「既読」という二文字が並んでいた。
ダメもとで誘ってみたら思いがけず買い物デートの予定ができて、舞い上がっていたのに(あっちに"デート"なんて思考があるはずがないのは分かっているけれど)会えると思うと今現在の距離が気になってしまって、寂しくなる。我ながら女々しいなぁ、と思う。「乙女ちっく」と揶揄われるのはやはり彼ではなく自分の方だ。自分と彼の間に確固たる"名称"があれば、「会いたい」と言ってこの寂しさを埋めることができるのに。
ひたすらトーク画面を眺めて彼のことを考える。彼は明日、どんな服を着てくるのだろう。やっぱりいつものジャージかな。それもそれで好きだけど、少しはお洒落して来てくれたら、私だって希望の一つも持てるのに。
ブルーライトの攻撃が目に良くないということは知っているけれど、それでも画面を見ることをやめられない。
明日の化粧ノリにも差し支えるから、早く寝なければとは思っている。それでも往生際悪く彼のメッセージばかりが目に入る。
ごろごろと寝転がりながら携帯電話を眺めていたせいで、突如携帯が通知を受け取って震えたことに驚いて携帯を取り落としてしまった。携帯が顔面に着地し痛みに悶える。こんな夜遅くに誰だ、と恨みがましく画面を見つめると、ウサギの下に「おい」という吹き出しが追加されていた。スポ、という音とともにさらに「まだ起きてんのか?」という文言が来た。いつまでも未練がましくトーク画面を開いていたせいで、すぐに既読をつけたことがバレてしまった。「めんどくさい女」と思われたくなかったからあっさりと会話を終わらせたのに、いつまでもトーク画面を見ていたということがバレてしまっては意味がない。なぜか慌ててベッドの上に座り直し、髪の毛を整える。少しだけ迷って、「眠れなくて」とだけ送った。すぐに既読がつき、「待ってろ」というメッセージが来た。何事かと首をかしげ、トーク画面を開いたまま待つ。少しだけ長続きした会話が嬉しかった。しかし一向に続くメッセージは来ず、私は壁に背中を預けた。早く寝なきゃなのになぁ……携帯電話をそっと胸に押し付ける。
「寂しいなら言やいいだろ」
続けられたメッセージを届けたのは、画面に映る文字ではなく、鼓膜を擽る振動だった。
慌てて窓を振り返ると、ベランダの手すりに腰掛けるフィンクスがいた。ふわり、とカーテンが風になびく。
「……寒くない?」
やっと出てきた言葉はそんな台詞だった。ニカッと笑ったフィンクスに、好きだなぁと再確認する。そんなとこにいるのもなんだから、と部屋に入るように促すと、フィンクスの動きが止まった。
「?どうしたの」
「いや……それは流石に」
「大丈夫だよ、もうみんな寝てるし」
しい、と唇に指を当てると、
「分かってねぇ……!」
これみよがしにため息をつかれた。しかしフィンクスは結局恐る恐る部屋に足を下ろした。
「寝れなかったのか」
「うん……フィンクスも?」
もしかして、と尋ねるとフィンクスは髪を掻く。こんな早い時間に寝れねぇよ、とぶっきらぼうに言い捨てられる。
「そっかぁ……」
部屋の中には暫く沈黙が落ちた。
「あっ、何か温かいものでも飲む?」
そう提案しても、いらないと言われる。どうしたものかと悩み、それからポンと手を打った。
「よし、じゃあ一緒に寝よう!」
「ハァ……!?!?!?」
予想以上の大声に、慌てて静かに!と注意した。隣の部屋の家族に聞かれていやしないかとハラハラする。
「いや、おっかしいだろ!!!オレは間違ったこと言ってねぇ……!!」
続けざまにやや絞った声量でそう責められた。
「でも、他人の体温って温かくてよく眠れるんだって!それに一緒に寝たら明日待ち合わせしなくていいし!」
名案!とそう言うと、大きくて深ーいため息をつかれた。
「ダメだ」
「えー……」
「そういうのは明日以降にしろ!」
「え?明日?何で?」
「あのな!こういうことにゃ順序ってもんがあるだろ!折角こっちが……あークソ、とにかく明日言うことあっから!早く寝ろよ!」
開いていた窓から飛び出して行った彼のジャージを見つめる。5秒後、その場にずるりと座り込んだ。

やっぱり「乙女ちっく」だったのは彼の方かもしれない。

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