1 year anniversary

花束が似合わない。破滅的に。そんなのはわかりきった事だとフィンクスは開き直ってはいたが、色鮮やかな花束を抱えて歩く道のりはこれ以上はないというくらいに恥ずかしい。無意識に出てしまう舌打ちも仕方ないが、足取りは案外重くはなかった。渡す予定の相手の、受け取ったときの笑顔が浮かぶ。太陽のように眩しい笑みで、目一杯のお礼を言う彼女。悪くない、と早く渡してやりてえとさえフィンクスは感じていた。

「いらっしゃいませ!」

カランカランと開けたドアに合わせて鈴が鳴る。その音にパッと反応して、自分を迎え入れる優しい声。1 year anniversary といつもは見かけない黒板に綺麗な字と華やかな装飾で書かれていた。

「ん、やる」
「えっ!?……フィンクスから花束?」
「んだよ、わりいか」

そんなことない!すごく嬉しいよ!と彼女の顔がふにゃりと崩れる。今すぐに飾りたい!あ、いつもの所空いてるからどうぞ!と忙しなく動く表情と身体に、落ち着けよと頭に手を乗せる。

「色々届いてるんだな」
「気持ちだけで嬉しいって言ったんだけどね」

花束を見つめながらどこに飾ろうか悩むなあ、とにこにこ笑う彼女。喜んでもらえるとはもちろん思っていたが、ここまで手放しで喜ばれると何だか落ち着かない気分になってしまう。

「はい、コーヒー」
「おー、サンキュ」

一年前の今日にもここで、この席で同じコーヒーを飲んだ。一年とちょっと前に喫茶店を営む!と宣言した彼女。なぜか開店に必要なものを買いに行ったり、力仕事も手伝った。そして宣言通りに、一年前の今日に目出度くオープンしたこの店。未だに電気が消えかけると彼女から電話が来るが、それももう当たり前になった。

「これからも、この店ごとよろしくね」
「…来年まで続いてたらな」
「酷い!来年もちゃんと祝ってよね!」

彼女は気付かない。フィンクスがこの店に流れる彼女を含めた穏やかな空気が、好きなこと。好きでもない女の店の電気なんか、普通は変えてやらないこと。

フィンクスは気付かない。彼が飲むコーヒーにしか入れない隠し味があること。

二人は気付かない。お互いが、お互いを大好きで仕方ないことに。


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