シャルナークとごはん


きっと、午後は眠気との戦いだ。目の前に置かれた食事をみて思う。ミートパスタにチーズドリア、マルゲリータピザにラザニア。一般女性が摂取すべきカロリーを軽々と超えるだろうそれらに、思わず表情が強ばる。シャルが私のために料理を振舞ってくれたのだ。全部。
無駄に凝り性な彼の手作りだから食べないという選択肢は絶対に選べない。
行儀よく置かれたフォークを手に取り、パスタを絡める。くるくると巻き付けられた麺の塊を口に運んだ。ぱくり。トマトケチャップの甘みが口いっぱいに広がった。お肉とパスタのもちもちとした食感も癖になる。さすがシャル。コック顔負けの美味しさ。
私が黙ってパスタを食べ進めると、シャルは着ていたエプロンを畳んで目の前の席に座った。にやにやしている。イタズラが成功した子どものように。
「美味しい?」
そうやって楽しそうに聞くが、パスタが口の中に残っているせいでろくに返事もできない。もぐもぐと咀嚼を繰り返していたら早く言えと急かしてきた。待ってと目で訴えてから、口にあるものを全部飲み込んで、きっと彼が待っているだろう言葉を繰り出した。
「そりゃもう、ものすごく。これでもかってくらい美味しい」
「それなら良かった」
テーブルに両肘ついて顔を支えたその姿があざとくて、少し見とれてしまう。数秒見つめあった後で、聞きたいことがあったんだと思い出す。煩悩を振り払って、ずっと思っていた疑問を問う。
「ちなみにさ、これ全部私が食べるの?」
目の前の彼は大きな瞳をぱちくりと瞬いて、呆れたように肩をすくめる。
「もちろん。デザートもあるから沢山食べてよ」
「……ありがとう」
一緒に食べてくれるもんだと思っていた。希望は呆気なく朽ち果てて、これあげる!なんて言葉をパスタと一緒に飲み込んだ。
なぜシャルがこんなにも料理を運んでいるのか、事の発端と言えば私だ。イタリアンを食べたい。私が放ったこの一言。レストランに行こうという意味だったのに、オレが作ると言い出して聞かなかった。手際よく増える品数に横から口を挟むことも出来ず、私はただシャルが料理を作るのを見ているしかできなかった。気づいたらたった二人だけのホームパーティが出来上がっていた。
「おまえが食べたいって言うから作ったんだよ。もちろん食べてくれるよね」
なんとも言えぬ表情でシャルを見ていたのがばれてしまったようだ。ちょんと私の鼻を小突いてきた。わかってるよ、全部食べるよ、おいしいもん。言い訳じみた言葉を吐いてチーズドリアにも手を出した。
シャルは満足そうに「あ」と声を漏らすと、もう一度私に手を伸ばしてきた。口元をぐいっと親指で擦られて、なんだなんだと思った瞬間、シャルは親指を咥えていた。
「ミートソース、ついてたよ」
ぱちりときまったウィンク。様になってる、じゃないよ私。彼が何をしたのか気づいた瞬間、かっと頬が熱くなった。いい歳した大人がソースつけていたのもそうだし、そのソースを見せつけるように食べられたのが恥ずかしい。
お茶目だな、なんて笑う顔はとてもじゃないが眩しくて見れなかった。
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