流星外でフィンクス


「また同じ夢を見たんだ」
無造作にはねた、くせ毛が目立つ小さな男の子がぽつりと言った。空はまだ赤みがかっており、空気もひんやりと冷たい。普通の子供なら毛布の温もりと離れたくなくて、もう一度眠りにつくはずなのに、その男の子は目を擦りながら私の足元までやってきては同じ言葉を繰り返す。「お前はいつも遠いところへ行くんだ」と。
私の服をシワができるくらい強く握る男の子に「大丈夫だよ」「遠くに行かないよ」って声をかけても、信じられないと俯くばかりで、私も対応に困っていた。
私がこんな場所から離れられるわけがないのに。
「大丈夫」
安心して欲しくて、できるだけ柔らかい声を出す。
男の子が顔を上げると、子供特有の大きな瞳に膜が纏っていたのが見えて私はうっすらと笑った。その小さな手を握り、頼りない背中に腕を回してから、ぽんぽんと数回優しく叩く。男の子は握ってない方の手を震わせて私の背中に回すと、えぐえぐと声を潜めて泣いた。

気がついたら、同じ季節を何回か繰り返していたようだ。男の子が私の元にくる回数は歳を重ねるごとに少なくなっていた。何故私の夢を見るのか不思議だったけれど、悪い夢を見なくなって安心したのも事実。
どんどん逞しく成長してる姿を遠目から眺めていた。
そんな時、彼は時折私を見て無愛想に手を上げてくれるのだった。それは、彼なりの挨拶で、照れ隠しなのも知っている。だから私は愛想良くふんわりと笑うのだ。

いつしか、彼はこちらに目も向けなくなった。成長過程の容姿はいつの間にか成熟しきって、男性だと言える歳になっていた。一抹の寂しさも感じたが、男の子とはそういうものなのだろう。知らない間に大きくなって、いつの間にか自分の元を離れていく。

またある日、私は一枚の手紙を見つけた。「世話になった」の一言だけだったが、送り主が誰なのかは聞かなくても何となくわかった。あの男の子だ。きっと遠くへ行ったのだろう。最近は姿すら見えない。遠くに行くなとあれだけ言っていたのになぁ、自分から離れていくなんて。
でも、これでわかった。私がいなくても、彼はもう上手に生きられる。
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