フィンクスで現パロ


 古びた校舎の階段を登る。本来なら鍵がかかっているその場所だが、例の男がいる日は別だった。
 立て付けの悪そうなドアノブを回し、ワックスがけされたタイルを飛び越える。でてきたアスファルトの感覚を、上履き越しに感じながら数歩前にでて、辺りをキョロキョロ見渡した。サボってるだろう柄の悪い男を探すと、貯水タンクのあるハシゴ上に彼の私物のスクールバッグが目に写る。
 
「フィンクスー」
 
 声をかけて手を振った。きっと声に気づいただろう。私もカバンを置いてその場に座り込んで、頭がひょっこり出てくるのを待つことにした。そして数分経つが男からの反応は一向にない。寝ているな。よっこらせと立ち上がって、目の前のハシゴに手をかけた。他に誰もいないからと、短くなったスカートを気にせず登った。ひとつ上に進むごとに、みしみし良くない音が聞こえてきて、私は小さく身震いした。フィンクスみたいな図体のでかいヤツでも登れたのなら私なんかどうってことない。わかってはいるけれどやはり怖い。さっさと登ってしまおう。
 貯水タンクが見えてくると、案の定金髪ヤンキーが寝っ転がっていた。本を読んでいたらしい。日除けに本を使うだなんて、こいつ。らしくなくて自然と笑みが浮かんだ。そのままフィンクスに近づいた。何を読んでいるのか気になって手を伸ばすのと同時、手首を掴まれた。
 
「んだよ」
「羅生門?」
「また来たのかてめぇ」
「待って無理。似合わないんだけど」
「おいこら」
 
 フィンクスは無視すんなと付け足して体を起こした。
 
「おはよう」
「……はよ」
「また来てあげた」
「物好きだな」
「まあね」
「今何限」
「二限。保健だよ」
「仮病か」
「そんなことないよ。お腹痛いもん」
「そんならトイレにこもってろよ」
「男にはわからない痛さなの!」
「興味ねー」
 
 少しくらい気にしてよ、なんて間延びした声で訴えれば欠伸しながら良くなるといいななんて返ってきた。すごくどうでも良さそう。
 
「そう言えばちーちゃん、あんたがいなくて心配してたよ」
「あ? なんで」
「フィンクスが良い奴なの知ってるんじゃない?」
 
 知らないけど。心の中で吐き捨てて気に入らない女教師を思い出す。ちーちゃん、アルベイン=チルディノス。いつの日か、フィンクスに助けられたそうだ。それ以来、この金髪野郎に淡い感情を向けているのを私は知っている。フィンクスは舌打ちした。
 
「四限、国語だったよな」
「うん」
「そん頃に戻る」
「わかった」
 
 そして、同じようにこいつがちーちゃんのことを気にしているのも知っている。国語はちーちゃんが教える授業だ。むかつく。視線が落ちた。私の方がずっとフィンクスのこと好きなのに。
 
「本好きだったけ。文豪とか、興味無いんだと思ってた」
「あー、まあ、な」
「わかるの?」
「全く。理解出来ねぇや」
「だろうね、フィンクスだもん」
「んだと」
 
 腕を掴まれたまま引っ張られる。凄んだ顔が近づいて、おでこがくっつきそうになる。このまま、くっついてしまえばいいのに。目を閉じて願った。そして同時に醜い感情が渦をまく。フィンクスが本を読むのが気に入らない。あの女が国語担当だからって。話を合わせたいからって。私が好きなものには何一つ興味ないのに。ぽっとでのあいつが。
 
「おい、大丈夫か」
 
 声をかけられてはっとする。
 
「普通に体調わりぃじゃねえか」
 
 いつの間にか眉間にシワがよっていたらしい。保健室連れていこうか。心配そうな声をかけられて泣きそうになった。なんで、こんなに優しいのよ。ばか。


「大丈夫。ここで、フィンクスといる方が落ち着く」
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