2019/04/25 22:23 シャル死ネタ 届きそうで届かない何かがあった。 それはまるで、山の頂から光る星を掴もうとして掠りもしないそれに似ていたり、フェイクアートから飛び出した絵を触ろうとして空を切ったようなものだと八月半ば、一人星を見つめる私は思う。 「ねぇ、シャル。星を見に行こう」 「どうしたの急に。オレこう見えて忙しいんだけど」 「ペルセウス座流星群見たくて。仕事終わったあとでいいよ。でも八月十三日までに終わらせて」 「ウソだろそれ、明日じゃん」 パソコンにかじりついた顔を上げて「急すぎ」とベッドに寝転がる私を恨めしげに見るが、私はそれを知らないふりしてシャルに近づき肩に手を置いた。無茶を言っているのはわかっている。だけど彼ができる男なのは知っていた。顔を覗きこんで、少し甘えてやれば承諾してくれることも。だから「頑張って」と私が言えばシャルはあーもうとため息ついて、「わかったよ」と頭をかいた。 「あと三時間。もう少しだけ待って」 そう言うと本当に三時間で終わらせて、どの山に行くか何を持っていくか、シャルは色々と考えてくれた。次の日の昼は準備を済ませて山に向かった。その日は雲一つない晴天で、暗くなると星が綺麗に光っていた。 「これなら流星群もよく見える」 そういった彼に同意する。思わず手に取りたくなる光の集合体に手を伸ばす。 「シャル、いつもありがとう」 呆気に取られた顔をして、次に彼は吹き出した。 「なんだよ、いつものことだろ」 結局その日、流星群は見れなかった。もしかしたら見逃していただけかもしれない。しょぼくれていた私に「また来年こよう」といった彼にヘラヘラしながらだいすきだとと伝えると同じようにオレもだよと笑ってくれた。 あなたは私の憧れだ。ずっと前からそうなんだ。私が転んで怪我した時も、怖くて木に登れない時も、どんな時も「しょうがないなぁ」と呆れたように笑って手を差し伸べてくれた。泣きべそかいて「ありがとう」と手を取る私の姿があなたにどう見えていたのかはわからないけれど、その目に私がしっかり映りこんだのは確かで、それが何よりも嬉しかった。 私より頭一つ大きくて、金色の髪を携えて、少し幼い顔立ちで、でも逞しい体をしていた君。 シャルはいつも優しくて、いつも私のそばに居て、だからいつもシャルを頼った。 だいすきだと伝えたあれは友愛じゃなくて、ちゃんと言えば応えてくれただろう好きという気持ちに、私は親愛だと言い聞かせ、もう一歩踏み出せば届いた距離に怖気づいて蓋をした。だってあなたがいれば幸せだった。それ以上望んだらバチが当たる、そう思ってた。だから望まなければ永遠に続くと思ってたのに、私の勘違いのようだった。彼は先に死んでしまった。 ねぇ、シャル、どうしようもないくらいあなたが好き。あなたのいない世界がこんなにもつまらないものだなんて思わなかった。ねえシャルお願い、いつもみたいに手を引いて。こんな時だけ先に行ってしまわないで。 届きそうで届かない距離にいる彼に向かって好きだと告げる。去年と同じ場所でシャルを思った。チカチカと光る空に雨のように白い線が走る。この美しい景色を見たら、きっとあなたも泣いてくれるだろう。 |