2019/04/23 02:56 手を伸ばしても空を掴むだけだった。 私が追いかけたあの人の姿は今ここにはない。陽の落ちた浜辺に一人。さらさらと流れる白いサンゴが波にのり、私の足はゆっくりと沈む。熱くなる目頭から雫が一滴、静かにこぼれた。水面に描かれた波紋のように私の思考も広がって、彼の冷たいことばが頭をよぎった。 「もう用済みだ」 かち合った視線に捕らわれて、動けなくなった私に刺さった冷たいナイフ。今もズキズキと胸が痛み出す。感覚として残っているからか、足が海水に浸かっているからなのか。すうっと体温が奪われるような感覚に身震いし、空を切った自身の腕を抱きしめた。 とまらない震えは恐れか寒さかはわからない。 それでも私はどれだけ胸がえぐれるような思いをしても、あの男のもとにいたいと願っていた。あの夜空を輝く星の中、何よりもうつくしい月のように、静かに佇む男のもとへ。 「お前はよくやったよ」 そうやって離れていくまでは、たとえ服が擦り切れても、手足が傷ついても、この手をどれだけ汚しても、私は諦めることなんて出来なかった。あの人の望むものを必死になって探し回って、手に入れたものを愛でもせず、喜んでほしいとあなたに渡した。それがどんなに間違ったやり方なのかもわからずに、必要ないと何度投げ捨てられようと、私はこれが正しいやり方だと信じて懲りもせずに繰り返した。 だけど、ぼろぼろになって、もう動けなくなって、あなたの役に立てなくなったその時に、あなたのモノになんてなれやしないと、私は初めて受け入れた。 ずっと前から気づいていたのに。なんて愚かな女だろう。 流れるサンゴに逆らって、私はまた一歩、地面を踏みつけた。服が水を吸い、沈むような感覚の中、見上げたその先にある空をみて安堵した。彼と私は最初からこんなにも違うではないか。初めからあの月に辿り着く答えはどこにもなかった。 クロロが好きで好きで仕方なくて追いかけていたのに、見放されて海に一歩前進、みたいな話。Twitterに投稿したものはこっちにも掲載していこうと思います。 |