No. 14 星はしずかに水没する

それを見るのは初めてじゃない。
それでもジョルノの剥き出しの肩越しに見るのは初めてで、私は少しドキリとした。
つつ、と指先でなぞればひんやりとしていて、タトゥーなんかじゃあなくて生まれながらにして彼の一部なのだと分かる。

「擽ったいよ」

「変わったアザね。生まれつき?」

「うん……そう」

「……いわくつき?」

「鋭いね」

「そりゃあ……だてにジョルノの事ばかり見ていないもの」

「君には敵わないな」

「誤魔化さないで」

キスをしてこようとするジョルノの唇に指を当てて止める。むにっとなった顔が可愛い、なんて言ったら拗ねるだろうか。

「話したくない事?なら無理には聞かないけれど」

「なまえになら構わないよ。いつかは話すつもりだったから。それが今か先かなだけで」

「なら、今がいい」

「長くなるから、先に服を着て」

数十分前にベッドの下に落としたままにしていた服をジョルノが拾って渡してくれた。ベッドの上で着替えている私の横で、ジョルノも服を着る。薄紫色の星は見えなくなった。
それが少し惜しい気持ちになっていると、ジョルノはそんな事には気付かない様子で私を抱きしめて再びベッドへ入る。
腕に私の頭を乗せて、もう片方の手で髪を撫でてくれる。私もお返しにジョルノの髪を耳にかけてやった。

「……それじゃあ話すけれど、とても長くて複雑な話だから眠たくなったら気にせず寝ていいよ」

「うん、分かった」

ジョルノが天井を見つめながらぽつぽつと語り始める。
記憶を探るように、記録を思い出すように。
その内容は私の想像を遥かに超えていて、自分で言ったものの今この話を聞いてしまっても良いのだろうかとすら思ってしまう。
私の頭を乗せていた腕も退かされて、私の瞼もとろんと重たくなってきた頃、ジョルノは話し終えた。

「……長かっただろう?」

「ん……でも聞けてよかった」

これは本心である。
私は彼の父親のどちらの顔も知らないけれど、ジョルノの中にある爽やかで黄金のような気高い精神と誰かを惹きつけて止まないカリスマ性はきっと両方の父親の良い面を受け継いだのだろう。
そうでなければ16歳にして裏で麻薬を一掃しようとイタリア全土を治める組織のボスなどにはなりえないのだ。

「お父様譲りなのね」

「僕にはどちらも父として馴染みはないけどね。ジョースター家の者には必ずあるらしいよ。僕はまだジョースターの人たちには会った事がないから、解らないけれど」

「会いたい?」

「……どうかな。向こうにしてみたら、僕は仇みたいなもんだろ」

「会ってみたら、意外と意気投合するかも」

「なまえが一緒なら、そうなる気がするな」

「じゃあその時はついていこうかな」

「うん」

ジョルノが私の小指に自分の小指を絡めてくる。それは指切りになって、ジョルノのキスが落とされた。

「ねぇ、ジョルノ」

「ん?」

「ジョルノの背中にある、その『星』は、何を見てきたの?」

ジョルノの父親もその子孫もきっと壮絶な運命の下で生き、そして彼らの背中にある星はそれを全て見てきた。
だとしたらジョルノの背中の星は、ブチャラティたちの死なくしては得られなかっただろう今に至るまでの道のり全てを見ているだろう。
私にはそれが少しだけ怖くて、ジョルノに尋ねる。ジョルノは不安そうな私の額にキスをして安心させるように微笑んだ。

「なまえとの未来をこれから見るんだよ」

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