11 知らない世界へ行くために

 秋の盛りが木の葉の色を変えて、朝晩の空気は町を冷やすようになった。
 あれから1週間に1回は、リリアナはスクアーロかティッツァーノと一緒に食料品の買い出しに出かけている。店に入るとすぐそこに並んでいる野菜や果物、それに奥のほうにある魚介類は、リリアナが初めて店を訪れて以来種類が少しずつ異なっていっている。だから新しい食材が並ぶたびにリリアナは「これはなあに」「これは美味しいの」と訊ねる。ティッツァーノはリリアナの質問に対して「色が違うけどこれもラディッキオだよ」とか「これはサラダにするのが良い」などと答えてくれるのだが、スクアーロは「何だソレ、おれも食べたことねぇな」とか、あるいは「あんま美味そうじゃあねぇな」などと言って顔をしかめることもある。それなのにスクアーロは食べたことがないからこそむしろ興味がわくようで、「よし買って行こうぜ」とくだんの食材をカゴに入れる。
 それで家に帰ってその食材で料理してみて意外にも味が良かったりしたときは、リリアナもスクアーロも二人して得した気分になるのだが、一方で第一印象通りあまり美味いと感じなければ、食卓はしばし沈黙に包まれる。そして、そこにティッツァーノが昼食のために一時帰ってきたとなれば「また変なの作って……」と小言を言われる。
 「だって食べてみようとは思うだろ?」スクアーロはいつもそう反論するし、リリアナも「美味しくなくはないから……」と付け足す。スクアーロもリリアナも腹が満たされればそれで良いという意見も持っているので美味でなくても完食するのだが、何ならリリアナは、「今度美味しい作り方を教えるよ」と言いいながら同じく完食してくれるときのティッツァーノの表情が好きなのだ。ちょっと呆れたように眉を寄せながら、それでも口元はこのやりとりを楽しんでいるように少し上がっている、そんな彼の表情が。

 リリアナが使っている寝具にはリリアナの使っているシャンプーや洗剤の香りが移ったし、食器棚のどこに何が入っているかをリリアナは完璧に覚えた。シャワーの蛇口をどのくらい捻ればどのくらい温かい水が出てくるかという感覚も掴んだし、便所を掃除するのは2週に1回がちょうど良さそうなこともわかってきた。リリアナの部屋にあるチェストには、スクアーロがスタンドを見せてくれたときのボトルが相変わらず置いてあって、最近はさらに洗剤を買ったときにオマケでついてきた指人形や、タオルをまとめ買いしたときに1枚付けてもらった花柄のハンカチも並べて置いてある。

 スクアーロとティッツァーノは週の半分くらいは夜に仕事が入ったりして別の所で寝ているようだけれど、それでもリリアナと顔を合わせない日はないようにしている。仕事の合間にできるだけ食事は一緒に取るようにしていて、その前後に時間があるときは、スタンドの訓練に付き合う。夜に仕事が入っていないときは三人でテレビを観たり、いつ誰が置いていったのかもわからないトランプや埃をかぶったボードゲームを引っ張り出してきて、アイスクリームカップの最後の一つを賭けて勝負したりしたこともあった。

 彼らがいないあいだリリアナはずっと床に座ってトランプを積み上げたり、ボードゲームのプレイヤーを全部自分にして遊んだり、居間に置いてある何かの雑誌を何度も読み返したりしていた。けれどそのような一人遊びもそろそろ限界がきてしまって、今度はリリアナは玄関の郵便受けに入ってきたチラシの裏に、女の子や男の子、花や太陽の絵を描いたり、その横にゆらゆらとした線でアルファベートを書いたりした。お絵かき中のリリアナの元に戻ってきたスクアーロとティッツァーノがその様子を見たそのときには、「絵も描けるんだな」「上手だね」とリリアナを褒めたのだが、あとで彼女がその場にいないときに「やっぱり最低限の勉強は必要ですね……」「あの字なんて書いてあるかわかったか?」「いや……半分くらいしかわからなかったですね……」と頭を抱えたのだった。

***

「これとこれ、使いな」
「あと、これは絵を描く用に」

 そんなわけで次の日スクアーロとティッツァーノがリリアナに差し出したのは、罫線のあるノートに黒のペンと鉛筆、それにスケッチブックと色鉛筆だった。

 「あっ消しゴム忘れてたな」というスクアーロの呟きが聞こたのかそうでないのか、リリアナはそれらを受け取るとすぐにぱらぱらとページをめくったり、色鉛筆をケースから出して彩りを一本一本確かめたりしている。「どう? 使えそう?」というティッツァーノの問いかけにも一瞬顔を上げて何度か首を激しめに振って頷き、それでまたすぐにスケッチブックの紙に指を滑らせて、頬を紅潮させている。かと思えば「あッ」と短く声を出してまた顔を上げると、スクアーロとティッツァーノにありがとうと礼を言った。

 彼らとしてもここまでわかりやすく喜んでもらえるとは思っていなかったので、二人で顔を見合わせて安堵の笑みを交わした。けれど同時に、リリアナに勉強を教えるという新たな任務については、どうしたものかとそれぞれが考えてあぐねていた。スクアーロは学校というものに対してなかなかに反抗心を持っていたし、実際中学も半分くらいは行っていない。ティッツァーノは非一般人にしては「一般教養」とされるものをよく知っていたし今でも本を読んだりするが、子どもに教えるとなるとまた話は別である。

 今の段階でアルファベートを教えるくらいなら二人とも問題なくできるし、学校で読むような小説は本屋に行けば見つかるだろう。簡単な数字の計算くらいならすでにリリアナはできるし、いまのままの日常生活なら勉強しなければと焦ることもない。それに、リリアナがスタンドの制御を身につけて、さらに自分の身は自分で守ることができるようになれば、学校に行くというのも不可能ではない。しかし問題は、そのときがいつになるかだ。外見は大人に近づいていくというのにその手で書く字がのたうち回るミミズとくれば、組の仕事を満足にこなせない恐れがある。この問題について、まるで脳内を共有しているかのように同じように考えていたスクアーロとティッツァーノは、早速橙の鉛筆を選んで丸を描き始めたリリアナに向かって、探るように声をかけた。

「それでリリアナ、絵を描くのもいいと思うけどね、学校の勉強を……するのも、いいと思うんだけど……」
「おう、そうだ、そうだよな。学校の勉強」
「……うん?」

 リリアナは要領を得ないという顔で、しかしとりあえず返事をする。

「ほら、この前書いていたアルファベートとか」
「あぁ、あれな! おまえ、いつの間に書けるようになってたんだ? まだ学校行ってねぇのに」
「えっと……前に教えてもらったから……」
「あ、そうだったんだね。でも、練習すればもっと上手くなれると思うよ。ねぇ、スクアーロ?」
「お、おう。字は大人だって下手なやついるからな。でもティッツァは上手いんだぜ。リリアナおまえ、教えてもらえよ。それ以外の勉強も一緒にさ」
「えっ」

 ティッツァーノは勝手な提案をしたスクアーロのほうを見る。しかしスクアーロは「勉強は楽しいぞー」と言いながらリリアナの頭を撫でたままにして、ティッツァーノの視線をなんとか避けようとしている。

「うん、楽しみ」
 ティッツァーノの圧のある視線にリリアナは気がつかず、ただスクアーロに同意した。すると、
「そうだね、勉強は楽しいんです。だからスクアーロも一緒に教えてくれますよ」
「えっ」
 今度はティッツァーノがスクアーロの肩に手を置いて視線を合わせ、「ね?」とにっこり微笑んだ。
「あのね、わたし筆記体もちょっと書けるよ」
 しかし二人のあいだで交わされた言外の応酬は、アルファベート・ミミズの連なりを一文字ずつ違う色にして書き始めたリリアナには伝わっていなかったのだった。

***

 リリアナの学びへの意欲は、スクアーロとティッツァーノが想像していたよりもずっとたくましいものだった。リリアナはアルファベートのきれいな書き方を教わったらノートに何度も同じように書いたし、初等学校で読むような易しい物語は何度も声に出して読んだ。朝食を3人で一緒に取ったあとの時間のあるときにはリリアナがずっと声に出して読んでいるので、ティツィアーノはもちろん、スクアーロもその本の出だしのフレーズを覚えてしまった。

 一度リリアナは、その本の表紙の絵をスケッチブックに真似して描き写していた。そしたらスクアーロとティッツァーノに褒められた。だから今度は本の挿絵を描いて、「あの……」ともじもじしながらそれを彼らの前に差し出すようになった。彼らはまた「お、上手いじゃん」とか「よく描けているね」などと褒めるのだが、彼らは単にその絵が上手いと思ったというよりも、少しずつ自己主張というものをするようになったリリアナの姿にもっと感心しているのだった。

 リリアナはこの2ヶ月間ほどで、だいぶ明るい顔をするようになった。
 スクアーロとティッツァーノがリリアナの小さな、あかぎれのある手を取ってここへ連れてきたばかりのころは,何を話しかけられてもびくりと肩をふるわせたり息を呑んだりするし、人の顔を見て話をすることもほとんどできなかった。お腹が空いた、何が食べたい、何が必要だ、眠い、眠くない、そんな基本的な自分の欲求も、促されないと出てこなかった。
 リリアナにそういった欲求がないわけではないということくらい、彼らは早くに気がついていた。言葉にできないだけで、リリアナにはたしかに胸のうちに溜め込んでいることがある。リリアナはときどき自分の気持を言葉にできずに落ち込んでいるし、溜め込んだものを吐き出せずにひっそりと泣いているときだってあったのだから。

 それらが出てこないのは、彼女があの陽の入らない酒場でこれまでしかばねのように生きていた日々のせいだろうと、彼らはなんとなく察していた。金と利権、名誉と地位への執着とが泥のように混ざったこの社会で、大人にいいように飼われる子ども。そんな子どもがあのようなところでどんな生活を強いられるかなんて、スクアーロもティッツァーノも知らないわけがなかった。自分たちだって、かつては心をすり減らしながら意に沿わないことをたくさんやったから、よくわかるのだ。

 そうして最近になってリリアナが自分のやりたいこととやりたくないこと、必要なものといらないもの、してほしいこととしてほしくないこと、そんないろいろな要求を言葉なり態度なりに表すようになったことを、スクアーロもティッツァーノもちょっとした驚きをもって見ていたのだ。子どもというものはこんなにも、周囲の状況によって変わっていくものなのか。ちょっとだけ先を照らしてあげて、あとは大丈夫だから行っておいでと安心させるだけで、子どもはどんどん自分で自分の道を進んでいくのだと、彼らは初めて知った。
 それに、一方でリリアナの年相応の振る舞いも増えてきた。ときにはささやかなわがままを言ってみたり、それが叶わなければふてくされたり。かと思えば次の瞬間にはもう機嫌が直っているような、ころころ変わる山の天気みたいに。少しずつ、少しずつ、リリアナはそのように振る舞うようになった。それをスクアーロは見ていて飽きないと思ったし、ティッツァーノは安堵を感じた。

 だから、リリアナが自分のスタンド能力の開発をするだけではなく、パッショーネの仕事を知る機会を作るときはそろそろだと、彼らは思った。その第一陣としてリリアナが申し渡されたのは、ナポリ県内にいくつかあるパッショーネの拠点に行き、各種の集金をするという仕事だった。

「集金……」
 金集めのお使いには行ったことあるだろ、とスクアーロに言われてリリアナは頷いたのだが、同時にこれまで会ったことのあるパッショーネの組員を思い出してみると、これまでやったことのある集金とはちょっと違った勇気が必要になる気がして、表情を曇らせた。

「お金を、わたしが……集めるの?」
「おう。そんな難しいことじゃあねぇよ」
「うん……」

 それはそうなのだが、いかつい風貌の男に対面してちゃんと「金を集めに来た」とはっきり言えるかとか、言えたとしても相手が素直に金を渡してくれるかとか、リリアナには不安なことがいくつか思い当たった。

「なんだ、怖いか?」
 スクアーロはリリアナの片頬を柔くつねりながら、そう訊いた。リリアナはされるがままの少し喋りにくい口から不安を漏らした。
「……あの、わたし……わたし一人だったら、あまり信じてもらえないと思う……」
 組員が使う拠点に自分が入り込んだら、好意的には子どもが道に迷ってしまったのだと思われるだろうし、悪くてふざけているのかと怒鳴られるだろう。リリアナにはサントーロに使いっぱしりにされるようになってから最初のほうに、似たような経験があったので、そういう悪い予想がついた。

「ふふっ、もちろん君一人で行かせるわけじゃあないよ」
 しかしティッツァーノが少し吹き出しながらそう言った。
「わたしたちは後ろにいるけど、『金を出せ』って言うのは君、ってこと」
「……」
「おう、だからちゃんとした格好して行かねぇとな」

 スクアーロが両頬を引っ張るので、眉を下げたまま口角が上がって、リリアナは変な顔になる。その変な顔のまま、リリアナは「ちゃんとした格好」がどんなものなのかを考えていた。
 このあとリリアナはキアイア通りに連れて行かれてガラスの向こうに飾られた服や靴を着てみるのだが、そのとき初めて「ちゃんとした格好」の実物を知ることになった。

***

 集金先にもいろいろあって、ルーレットやスロットを扱っている「いかにも」な遊び場だとか、ちょっと高級な肉を出しているようなリストランテや時計や宝石の店だけではなく、こじんまりとしたクリーニング屋、水回り工事業者の店舗、車の整備工場など、一見パッショーネとは何の関わりもないように見えるところにも顔を見せに行くらしい。リリアナは秋のあいだじゅうスクアーロとティッツァーノの三人で、あるいはどちらかが別の仕事でいないときには二人で車に乗って、いろいろな場所を巡った。スクアーロもティッツァーノもそれら集金先の者とはお互いよく顔を知っているらしく、店員に挨拶すればすぐに店の奥に通されたり、店の前に車が止まればわざわざ出てきて迎える店主もいた。

「あの、……今月分を、集めに来ました」
 それでたいがいの相手は、スクアーロやティッツァーノに背中を押されたリリアナがそう言いながら前に出ると目を数回しばたたかせ、うしろに控えている「保護者」を見る。保護者たちは片頬を上げながら意味ありげに頷くので、またえらい若者が来たものだと驚き、しかしすぐに金を用意する。それらの店はパッショーネの一部なのではなくパッショーネの庇護を受けているかパッショーネの土地や建物を借りている、あるいは最悪な場合パッショーネにちょっとした「借り」を作っているような店なので、いつもそれ以上の事情には踏み込まない。

 店舗や工場だと特にくつろぐような場所もないのですぐに次のところに行くのだが、商店だと奥に通されたあとに茶を出されたり、リストランテならそれに加えてドルチェが出てきたりする。襟のついたワンピースに、つやつやしたレースアップシューズという「ちゃんとした格好」をしたリリアナは、周囲の人たちが同じく小綺麗な格好をしているのを見て安堵しながらも、金や銀に縁取られたカップを落としてはいけないと思って少し手汗の滲んだ手でそれを掴み、一口ずつ飲む。紅茶ならともかくコーヒーが出てくると、一口目、二口目と飲んでいくうちに、リリアナの眉のあいだにはしわが深くなっていく。その渋い顔を見てスクアーロは笑い出すし、ティッツァーノは「全部飲まなくてもいいよ」と言って、係の者にジュースを持ってくるように頼む。

 それから、いままで触ったことがないくらい手触りの良いクロスの上に、これまた見たことがない彩りで美味さを主張してくるパンナコッタやマチェドニアが置かれるものだから、リリアナは腹の虫が鳴るより先に本当にこれが食べるものなのかを不審に思ったこともあった。それらを口に入れて1秒、2秒と経つと、甘みのなかにクリームの濃厚さや果物の酸味が混ざり合って、これまでのリリアナの経験では形容し切れないくらい複雑で、しかしただ「美味い」ということだけは言える、そんな味が口のなかに広がっていく。スクアーロやティッツァーノに美味しいか、気に入ったかと訊かれるとリリアナはドルチェを頬袋いっぱいに詰め込んだまま何度も頷いて、全部を飲み込んだ後に「美味しい!」と興奮気味に答える。

 スクアーロやティッツァーノがリストランテのオーナーと仕事の話をしている最中、リリアナは他の席にいる客たちのことを横目で観察していたことがあった。そうしてみると、客たちは皆「ちゃんとした格好」をしているだけではなく、リリアナが見たことのないくらい大きくて太い煙草のようなもの――リリアナはこれを「葉巻」というのだとは知らなかった――を吸っている男がいるし、3人で掛けている男たちは皆大きな装飾のついた指輪を揃いでつけているし、そういった男たちの隣には若くて輝かしい美貌の女が座っていることもある。
 リリアナはこれまでナポリの街の、どちらかというと汚くて雑然とした場所に住んでいたから、こういう人々を目にすることがほとんどなかった。このリストランテは同じナポリのなかにあるはずなのに、まるで自分の知らない世界に来てしまったような気さえする。リリアナは外国に行ったことがなかったけれど、もしかしたらフランスだとかドイツだとか絵本で読んだことがある国はこのように何もかもがきれいで整っていて、輝いているのかもしれないと思った。そうしたら不思議と、苦くて三口目を飲めなかったコーヒーも、知らない世界へ行くために乗り越えなければならないもののように思えてくる。試しにドルチェと代わる代わるで三口目を飲んでみたら意外にも美味しいかもしれないと感じたので、リリアナはあとでスクアーロとティッツァーノにコーヒーが飲めたことを報告しようと思った。

***

 ある日も、リリアナはスクアーロとティッツァーノと一緒に午後の早い時間のうちに集金に出かけた。それが終わると、ついでに最近寒くなってきたのでウンベルト通りでリリアナの冬服をいくつか買ったら、ちょうど夕食の時間だった。スクアーロとティッツァーノがどこかで食べて帰ろうかと話していると、ティッツァーノの上着の内側から電子音が鳴った。ティッツァーノはベルを取り出して、画面を確認する。「あ、多分ペリーコロさんからだ」と呟くと、画面をスクアーロにも見せた。
「あー、急ぎの用かもな」
「そうですね。公衆電話あるかな」
 ティッツァーノはあたりを見回すと、道の向こうに公衆電話を見つけて「じゃあちょっと行ってきます」と言って歩いていった。数分電話で話をしてから戻ってくると、スクアーロに「すぐにフォンターナさんのところに行けとのことです」と伝えた。
「あぁあそこか。ちょっと時間かかりそうだな」
「そうですね。……リリアナごめんね、わたしたち、急に呼び出されてしまったんだ」

 ティッツァーノは屈んでリリアナに目線を合わせた。

「夕食は一緒に食べられないけれど……そうだ、広場の角のところ、"グリーチネ"に行きましょう。あそこならこの時間でも誰かいるはずだ。リリアナ、帰りは迎えに行くから、それまで待っていてください」

 リリアナが聞いたことがない名前が出てきたが、スクアーロは「そうだな。こっから一番近いし」と同意する。ティッツァーノは腰を上げて、リリアナの手をとった。3人は並んでウンベルト通りを少し歩いて、ニコラ・アモーレ広場に向かった。

- ナノ -