03


 太陽の光を遮るものが何もない乾荒原の砂の色、それに多肉質で棘のある植物の緑がなす景色に不似合いな鈍い青色が、灰色のガスを出しながら進んでいる。スカニア・ヴァビス335型のそのトラックは前輪に1軸、後輪に2軸の3軸車となっていて、タイヤが安定しない砂道をなんとか掴みながら、大儀そうにゆっくり、ゆっくりと走っている。ただしこのトラックはスピードを出していないのではなく、出せないのである――というのはここが砂地であるからだし、そのエンジンが巨大な車体を素早く駆動させるには力不足であるからだし、そして何よりトラックの荷台部分に人が何人も乗っているからだ。

 地平線が真直ぐに見えるこのメキシコ乾いた大地に、容赦なく照りつける強い陽射し。それを避けるために荷台には幌が張ってあり、なかでは数名の男たちが座ったり立ったりして、忙しなく動いている。地図を広げて逐一現在走っている位置を確認している者もいれば、双眼鏡で各方角を眺め回している者もいて、皆一様にからからにくたびれた顔をしていた。彼らの身体の首から下には汗染みができている部分もあるが、額やこめかみに浮き出た汗はすぐに乾き、その代わりに小さな白い結晶が付着していることもある。この男たちはそうやってわざわざ悪条件のなかで何らかの調査をしているというように映るわけだが、彼らとて好きこのんでこんな身に堪える仕事をしているというわけではなかった。

 彼らは、ある人物の捜索をしている。そしてこの捜索を始めて、もう3日を数えるころになっていた。

「どうですか。このあたりは道は悪いが、そのぶんタイヤの跡なんかはすぐにわかるんじゃあないですかね」

 この暑いなかでも襟の高い服を着ている男は、隣で双眼鏡を覗く、日焼けした肌の男に尋ねた。しかし彼は日焼けの男の返事を待たずに、隠そうともしない苛立ちを含ませて声をあげる。

「あぁ、暑いな! 申し訳ないがもうこれは脱がせてもらう」

 男は早口でそう宣言すると、ボタンを引きちぎるかのような勢いで外し、シャツを脱いだ。その下からはまるで赤子の手のひらみたいに白い二の腕と肩が現れたが、しかしタンクトップの端から金茶色の胸毛が薄く生えているのが見えるので、やはり彼は大人の男であるとわかる。それを横目で見ていた日焼けの男は「だからシャツなんて着てこねぇほうがいいって言ったのに」と、小さく返事をした。タンクトップになった男は何も答えずに、ただ額の汗を拭った。日焼けの男は続ける。

「そうはいっても、ここを通って何日経ったかはわからんのでしょう。幸い雨は降らねぇ時期だが、あんま期待しないほうがいいですぜ」
「いやしかし3日前、彼がバイクで国境を越えたことはわかっているんです。この暑さじゃあ休み休み行くしかないし、道はここしかないはずだ。だから速度と合わせて考えれば――」
「アイアイサー、ボス」

 日焼けの男は話を遮って、いかにも集中していますというふうに双眼鏡を再び覗いた。しかし見えるのは、さっきと変わらずただ広く熱風と太陽光に晒される大地だけだ。

「早く見つけなければ……ジョセフ・ジョースター、彼の行動によっては、ドイツ国との戦争が始まるぞ……」

 額に伝うのは熱による汗だけではない。そのつぶやきは熱風に吹かれて、地平線の向こうに消えていった。


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