3.






少女は俺に大丈夫だと告げるように、
ただ静かに笑っていた。


俺を、落ち着かせる様に―――。



「名を、聞かせてくれないか……?」


「あ、ごめんなさいっ
名乗ってなかったね。私、黒木麻夜っていいます。」




少女の名を聞いた。

少女に似つかわしい、良い名だと思う。



「……あの、ナルトさん・・・?」


返事の無い俺に、少し不安そうに少女、麻夜が声掛けてくる。



「……ナルトで、いい。麻夜。」


麻夜と呼べば、呼ばれた事に対して、顔を赤らめてきた。



そんな反応も新鮮だった俺は、その後にどうしたらいいか分からなくなった。

自分の顔も紅くなっているのは、自覚済みだ。


「……な、ナルト?」


顔を赤らめながら辿々しく俺の名を呼ぶ麻夜。



麻夜に名を呼ばれると、身体のどこかがほくほくと温かくなるのを感じた。


名を、呼ばれただけなのに――――。




「……何だ?」


「え、いやー…、呼んでみただけです……。」



何だと返されるとは思ってなかったらしい。
麻夜は俺の問い掛けに驚いた顔をして、頬を赤らめていた。

「ナルト……。」



「だから、何だ……?」



「へへ……、君の名前を呼んで答えが返ってくる状況が嬉しいだけ・・・っ。」




紅い顔のまま言うその言葉に、俺も顔を赤らめてしまった。


俺は、周りに心配される程に無表情な子どもだった。

笑う事も泣く事も、まして顔が紅くなるなんていう行動に、

自分がなるなんて思わなかった。


麻夜に出会ってから、俺は乏しいながらも、
何度感情を態度に、顔に、表しただろう。



「ナルト。」

「……何だ?」


「ナ〜ルトっ」

「・・・・ああ。」



「ふふっ、夢の世界だわ。」


「………………。俺が、恐ろしくないか・・・?」



何度も俺の名を呼んでは、嬉しそうに笑う麻夜。

律儀に返事をしてやると、また楽しそうに微笑んでいた。



俺の名を呼んで楽しそうな奴なんて、初めてだ。


俺は再度、麻夜に問い掛けた。

最後の確認のように、すがる子どものように、

彼女の答えに「期待」した。



「………。もう、そんなに信用できない子かなあ、私。
怖くないよ、恐ろしくなんて・・・、こんなにも可愛い子のどこを見たらそう思うか教えて欲しいよ。」



麻夜はふてくられたかのように、呆れたように、

しょうがない、と子どもをあやすように言った。



俺が、「期待」していた以上の言葉に、
自然と頬が緩むのを感じた。


俺は今、どんな顔をしているだろう。

麻夜の様に、優しく微笑む事が出来ているだろうか?


俺は笑った。


初めて、心から笑った。



―――――麻夜に向けて、嘘の無い本当の笑みを送った。


その後の麻夜の反応は、
顔を火照らして、そして、あどけない無垢な、優しい笑みをくれた。



その顔が綺麗だと感じた。
まだまだ幼いその笑顔が、この世の何よりも綺麗だと思った。


そして……その麻夜の笑顔が愛しいと、感じたんだ。






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