2.






俺が顔を紅くすれば、
少女はそれを見てまた可愛いと連呼し出す。


少女の美的感覚は、きっと狂ってしまっているのだろう……。
まだ幼いから、先天性のものだろうか……。


そう思うと、少し同情してしまう。



俺なんかを可愛いと、綺麗だと言うなんて、

そう以外考えつかない。




自分の顔を、いや、自分の存在を綺麗だと思えた事など、
一度もない―――。


造形的な面からいっても、
精神的な面からいっても……、


綺麗な筈はないんだ、この俺が。


産まれた時から血塗られている、こんな俺が………。


父と、顔がよく似ているのは、
父の写真を見て知っていた。


火影のじいちゃんも、白狐も、父親によく似ていると言っていた。

父に似た顔、だから、
この顔が嫌いだと考えた事はなかった。


が、綺麗などと考えた事はなかった。

父の顔は美しいと思う。

けど、父に似ていると称されるこの顔は、
なんと醜く育ってしまったのだと思っていた。



ふと気が付くと、あれだけ騒いでいた少女が、
大人しくなってしまっていた。

少しはしゃぎ過ぎたと落ち込んでいる様に見える少女。



こうも簡単に喜怒哀楽を出せる少女が、
少し眩しくなった。



「……………。」

「……………。」



戸惑う少女も可愛い、と
俺は俯き項垂れている少女を見る。


目が合わないのをいい事に、
まじまじと少女を見続けた。

白い肌、夜を集めたかのような、豊かな漆黒の髪、
長い睫毛、その下に見える、海の様に深い蒼。

年相応に丸い身体と、平常時でも少し赤みがかった頬。



そのどれもが少女の美しさを現す為のものの様に思えた。

きっと、もっと成長すれば、
競う相手など出てくる筈のない程に美しくなるだろう。


その時俺は、少女の隣に立つ、
いや、少女をこうして見ている事が出来るだろうか………。



まだ分かる筈のない未来を想像し、
俺は気持ちが落ち込んでいくのを感じた。


希望を持たない、期待しない、
それが俺の生き方だった――――。



少女は、そんな俺をたった一目見たその瞬間から、
打ち砕いてしまった。


少女を信じたい――――。
少女の側に居たい―――。




この気持ちを、俺は何ていうかは知らない。

だが、もう打ち消してしまうのも烏滸がましい程に、
俺は少女を信じ、少女と共に居ることを願っている。



俺の中で死んでいた感情が、
心の奥底から溢れてしまっていた。



俺が見続けていたのに気付いたのだろうか、
少女がふと目線を上げた。

じーっと俺の身体を見ていたかと思うと、
はっとしたように声をあげる。



「き、傷は!?!?もう塞がったの!?」



慌てながら俺の身体の、傷の在った場所を見回す少女。

ああ、俺は自分の気持ちばかりで、少女に何も話していなかった。



「……………もう、治った。」

「あんなに血が出て痛そうな傷が…っ?」



治ったと言った俺を少し驚いたような、疑うような、
色々な感情が入り雑じった瞳で見つめてくる。



「ああ、………ふ、気味がわるぃ……」

「えーっ!いいなあ。
てかよかったよっ、大事に至らないんだったら!!
もう私、超焦ってたからねっ」



俺が自嘲気味に話す言葉を、少女は止めてきた。

よかった、という言葉に乗せて。




「………気味が、悪くないのか・・・?」



この力には、見遇った誰もが例外なくたじろぎ、
「化け物」という言葉を脳裏に過らせた。


三代目のじじいも、白狐も、奈良家も日向家も、

―――――例外なく、だ。



皆、顔にも態度にも出さなかった。
が、わかっていた。


……心が動揺していたのを。



九尾の力の弊害が、俺を貪っていると、
一瞬眼を反らしたやつだって居たんだ。



忍ですら動揺を隠し切れずにいたこの力に、
少女は、傷が治っていた事自体には驚いていたが、

その「治った」という事実に、戸惑うことなくストンと受け入れてしまった。




「ん〜?私もよく転ぶからさ、傷が早く治れ〜って願うの。
で、それが実行出来ちゃうって、かっこよくない?
まあ、私的意見だから、
ナルト…さん?がどう思ってるかはどうでもいんだけど、
気味なんて、悪い訳がないじゃん。」



「むしろ、羨ましい。
それも一つの才能だし?」






俺が、真っ直ぐ見つめた先に居た少女は、

俺の動揺を見透かすように、
優しく俺を包むように、


ただ静かに笑っていた。






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