だったらいいのに 時々ふと考える。 それは部活の最中とか家でピアノを弾いてる時とか、寝る前とか。 本来ならそんな事考える方がおかしいのかもしれない。それでも、すっと頭を過る何かを俺は無視出来ない。 俺の幼なじみに霧野という奴が居る。 女の子みたいな容姿だが、性格は男前でストイックな態度や冷静なところが女子にも男子にも人気だった。 部活は俺と同じサッカー部でDFをしていて、ドリブルは上手いし足も速い。 キャプテンである俺を支えてくれる大事な親友だ。 しかし最近、その霧野を見る自分の目が何か変わった気がした。いや目が変わったんじゃない、認識が少し変わったのだ。 今までは格好良いなとしか思わなかった親友の仕草の一つ一つが色っぽく見える気がするんだ。 例えば部活の後に汗を拭いたりだとか。 着替えであったりとか。 お互いの家で寛いでる時とか。 何かを食べてる時とか。 そんなの意識した事なんてなかったのに。 何故か目がいってしまって。 胸がドキドキして、体温がぐっと上がるようで、自分が自分でないようで。 そして思ってしまう。 霧野が女の子だったらな、と。 いや、俺が女でもいい。 とにかく霧野を取られたくなかった。 霧野が告白されたと報告してくる度に気が気でなかったし、霧野がどこの馬の骨とも分からないような奴に襲われないか凄く心配だった。 しかし霧野は誰とも付き合う事はせず、可愛い顔だが力が強い為、襲われる事もなかった。 霧野は一体誰が好きなのか。 寝る前にベッドの上で悶々と考えた。 思惟ても思惟ても俺の都合の良い方向にしか考えられなくて、それがまた堪らなくもどかしい。 意を決して霧野に問う。 「霧野は、好きな奴とか…居ないのか?」 たったこれだけ聞くのに随分時間がかかった気がする。 霧野はうーん、と首を傾げながら考えた挙句俺を見て一言。 「いるよ」 じゃあそれは誰なんだ。 今度は聞いても教えてくれなかった。ただ淋しそうに、もう諦めたからと言うだけだった。 (その諦めた恋の相手が俺だったら、俺は今すぐお前を抱き締められるのに) |