22時 柱時計がこちこち時を刻んでいた。忙しなく一定のリズムを支配する音に俺は多少の不安を覚えるが、隣の彼は別段気にする様子もない。ただ黙々と雑誌の一ページを見つめては捲り見つめては捲り、まともに読んでるのかさえ分からぬ顔でただただ時間を空費していた。 時折大きな瞳を見開かせたと思うと欠伸の前兆だったり顔が痒かっただけだったり。見ていて飽きるような飽きないような。微妙な境目で揺れていると不意に柱時計が大きく音を鳴らした。 「…なに」 「ああ、10時になった」 「はいはい成る程」 「寝るんじゃないのか?」 「んー、寝るよ」 然程興味はなかったんだろう。今までぱらぱら捲っていた雑誌を閉じてテーブルに投げ捨ててしまった。乱暴だなぁ。呆れながら見つめていると大きい瞳とばっちり目が合った。 「……ん?」 「あ、いや、」 「……神童さ、」 「…ああ」 「俺のこと好き?」 一瞬だけ何の音も聞こえなくなった。何も言わない俺に愛想を尽かしたのか、彼は視線を逸らしてベッドに寝転がる。 「あ、ああの…」 「ごめんいきなり変なこと聞いちゃって」 「いや、別に」 「大事な話があるんだ」 浅く座り直して体勢を整えようとする彼を微動だにせず凝視した。沈黙が肌にチリチリ当たって痛い。何を言われるか、どう切り出されるか、そればかり気になって胸がずくずくする。 「あのな神童、」 「…うん」 「俺たちの年頃はさ、恋と友情を取り違えることが多いんだって。特別な感情を好意に当てはめちゃうんだって…だから、同性を好きになることがあるんだとさ」 「…………」 「でもそれは一時の感情に過ぎないんだって。時間が経てば矛盾に気付いて自分も、相手も嫌悪するんだ。俺たちの仕組みはそういうもんなんだってさ、神童」 「…………」 「…俺は、俺はな、一時の感情じゃなくて、神童が好きなんだ。もうずっと前から、お前を、お前だけを好きなんだ。確かに俺はばかかもしれない、間違ってるかもしれない、でも偽りじゃない、好きなんだ」 「…………」 「……俺が、怖いか?気持ち悪いか?神童、否定してくれたっていい、お前の気持ちが聞きたい」 どうまとめればいいのか、自分の乏しい言語能力では無理な気がした。温かくて優しくて苦しくて切ない。涙が出そうで、息が出来ないくらい辛くて、でも笑ってあげたいと思う。霧野の真摯な気持ちを、俺の拙い受け身で抱き締める自信は正直ない。のに。俺でよければと、考えてしまう。憎いよ霧野、すごく憎い。 「……ばかっ」 「…うん」 「お前はいつも…っ勝手な奴だ」 「ごめんね神童」 「そんな風に言われたら、“俺もだ”って…言いたくなるに決まってるだろ…」 「うん…うん…」 「俺は思春期の理論なんて知らない…間違ってると思う奴が居るなら、言わせておけばいい…」 「……」 「好きだよ…っ…霧野…」 これなら共倒れしたって文句ないだろ。皮肉っぽく言ってやったのに彼は幸せそうに笑ってた。 触れた彼の手が擽ったくて、意地悪で乏しくて消えてしまいそうで、優しくて、とても愛しい。 企画サイトone hour様に提出 |