ベーゼは無しで 委員会の資料作成がどうとかで、ここ数日神童は部活に遅れて来るようになった。たかが資料作成如きで数日も掛かるのかと、部員達が口々に吐き出すので日に日に神童への不信感は募っていた。 このままではキャプテンの沽券に関わりそうなので、今日は資料作成をしているらしい神童の元へ向かった。勿論部員にはきちんと伝えてある。 職員室の二つ隣の部屋、印刷室の椅子に神童は腰掛けていた。周りには膨大な資料と綴じ込み用のホチキス。しかし神童以外に人は居なかった。 「…神童」 膨大な資料の隙間から、神童の顔がひょいと覗いた。ああ霧野どうかしたのか?どうかしたのかじゃないだろばーか。 「お前一人でやってたのか?」 「ああ…誰も来なくてな」 「ばか、そういう事はもっと早く言え」 「だって…」 「お前が何日も何日も資料に時間掛けてるから、先輩達も怒ってたぞ」 「…悪い」 悪いと思うなら俺にも手伝わせることっ!人差し指を神童の鼻に向けて言うと少し身を引いて神童は頷いた。 ていうか、よくまぁ一人でこれだけの量を引き受けようとするもんだと。神童のこういう常人であり得ない価値観と頑固さは俺でも目を見張るものがある。 後は綴じ込むだけだから、と神童は笑いながら言うけど。一人で山積みになったプリントの綴じ込みなんて、俺だったら絶対にやりたくない。 「お前は本当、真面目だな」 「まさか」 「…ふぅん、俺だったらサボるけど」 「これくらいで逃げてられないだろ」 なんてったって、今は革命中なんだ。一々細かい問題から逃げているようじゃ、大きい事は成し遂げられないさ。 ホチキスでまとめたプリントを綴じながら神童は熱弁し始めた。人間として高尚で洗練された奴だなと思いながら俺もプリントを綴じていく。 「…ま、俺はお前を尊敬するよ」 「下手な冗談はよせ」 「あ、ばれた?」 「そりゃあ、わかる」 「…尊敬はしてないけど、関心はあるよ」 「それは俺もだ」 俺達は大概の意見は一致するはずなのに、どうも根底での思惑はいつもずれているらしい。そこは決して分かり合えはしないのだけど、俺も神童も互いのその部分には興味があって、そして人間として惹かれていた。 だから俺達は親友でいられるのだと、俺はそう思っていた。 「これで終わりか?」 「ん」 「ありがとう、霧野のおかげで早く終わった」 「単調な仕事は早いんだよね俺」 「次からは霧野に頼むか」 「お礼はハーゲン●ッツで良いよ」 「ははは冗談、」 「だよな」 こんな小さい事で確信出来るなら、俺達の友情はまだ普通に続けていく事が出来ると。ホチキスの針を訳もなくカシャカシャ消費しながら印刷室の隅に戻した。 空は既に夕日が暮れかけていて、上空と地平線とのグラデーションで混ざった紫の部分は何故か神童を彷彿とさせた。 |