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突き抜けた空間








謝られるのが嫌いだった。
ごめんな、って申し訳なく言われるのが凄く嫌だった。
お前は何も悪くないのに。
これじゃあ俺が凄く惨めじゃないか。こんな気持ちになるくらいなら、いっそ軽蔑されてお前が俺から離れていってくれた方が何倍も有り難かったよ。

そんなこと言っても、もう遅いけどさ。


「…ごめん、ごめんな霧野」

「…も、いいよ」


何で神童が謝るの?何で神童が涙を流すの?謝るのも泣くのも、俺の役目だよ神童。
どうしてお前はそんなに俺に優しいの?
俺のことを傷つけたくないの?
俺のことを親友だと思ってくれてるの?

お前を恋愛対象にした時点で、俺はお前の親友なんかじゃないよ。少なくとも、お前ならきっと俺の気持ちを汲んでくれると思ってたから最低野郎だよ、俺は。

なのに俺に謝るの神童?
お前は、俺を軽蔑しないの神童?

ありがとう神童、ごめんね。


「…神童、」

「きりの」

「…ごめん神童、俺、もうお前の友達には…戻れそうにないや」

「…き、りの?」

「お前の知ってる幼なじみで親友の霧野蘭丸はもう居ないよ、だから、忘れてくれ」

「何言ってるんだ霧野…お前、は、俺の」

「…ごめんっ」



そうだよ、神童とは付き合えない。付き合えないのにいつまでも親友ごっこなんて可笑しいだろ。これでいいんだ、これで。

走りだす俺の後方で神童は何かを叫んだけれど、俺の耳には一生届かない。








その夜。

神童への想いを確実に断ち切る為に俺は一人、机に向かって考え事をした。
諦められないわけじゃない。
でも、断ち切った証拠が欲しい。
俺がこれから、生きていけるように。

視界に入ったのはシャーペンやら消しゴムやら。机の引き出しを探ってコンパスやら定規やらを引っ張りだしたその奥。


「……安全ピン、」


もう、これでいいか。
消しゴムを定規で四角く切り落として、耳たぶの後ろにあてがう。
一回だけ深呼吸。
安全ピンで位置を確かめてから、一気に耳に突き刺す。一瞬の痛みと高揚感。針の先が耳を突き抜けて裏の消しゴムに当たる。

冷静になって、消しゴムで押さえて宙ぶらりんになった安全ピンを鏡で確認する。確かに、刺さっている。
罪悪感も後悔もない。何故か遣り切った感がする。不思議と血は滲み出ただけだった。


「……ピアス」


買っておけば良かったな。
でもこんな小さい穴じゃ、きっとすぐに閉じちゃうかな。安全ピンを摘んでぐりぐり穴を拡張する。すっげぇ痛い。

明日ピアスを買いに行こう。
ファーストピアスにするなら長く付けるんだし、髪とか顔に似合うやつがいい。濃い緑色の、翡翠みたいな綺麗なやつを探そう。

付けたらばれないように、髪型も変えようかな。何だか楽しくなってきた。


いつの間にか、あの親友のことを忘れかけている俺が居るなんて、穴が開く前の俺が知ったら吃驚するんだろうな。




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