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杓子定規な君







半ば無理矢理連れてこられた公園の丸テーブル。彼の表情は浮かなかった。
きっと何か嫌なことがあったんだ。そう思って、何でも言いなよ、なんて大人振って彼の瞳を見つめた。
見つめ返す彼が、静かに口を開いた。


「彼女が欲しい」

彼は俺にそう言った。
呆気にとられてしまった俺の目の前で、彼はもう一度呟いた。


「マサキ君が、女の子だったらよかった」


酷く残酷で、まるで船が碇を下ろして海底の砂に突き刺すように、俺の心に深く深く沈んでいって、無意識に胸の辺りをぎゅう、と強く握った。


「マサキ君が女の子なら、僕たちきっと付き合ってたはずなのに…」


言うな言うな、それ以上言葉を紡ぐな。
ドクン ドクン と心臓が血を押し出す度に、俺の呼吸は不安定になっていく気がして、目の前に居るはずの彼は途方もなく遠い存在になってしまう錯覚に陥りそうになるのを、俺の中の僅かな希望が、彼への想いが、それを食い止めているような状態だった。



「マサキ君が、男じゃなかったら…」


きっと僕たち、幸せだったよね?



とどめと言わんばかりの一撃。
脳内の隅の方から記憶を消されていくような気持ち悪い感覚。そんな俺をただ見つめているだけの、彼。

いつもみたいに「冗談だよ」って笑ってくれよ。あのムカつく笑顔でさ。輝クン、君、そういう顔、似合わないよ。


「…そういう笑えない冗談はやめようよ、輝クン」

「……」

「俺別に、輝クンの事なんてこれっぽっちも好きじゃないけどさ、でも、言っていい冗談と悪い冗談の見分けくらい、つくでしょ?」

「…マサキ君、」

「……っ」



「…ごめんね」



今まで見たことないような、悲しい表情。俺、何か悪いことしたのかな?

だったら素直に謝ってあげるから、頼むから、そんな泣きそうな顔、やめてよ。


「結局、君はそういう人なんだね」

「…ごめん」

「平気で人を傷つけるような奴なんだ」

「…ごめん」

「もういいよ、もう疲れた…俺に、構わないでよ輝クン」

「…ま、マサキ君、」


「…いい加減にしろよ、この偽善者ッ!!」


ダンッ、テーブルに拳を叩きつけて、俺はその場から逃げた。後ろで輝クンがまた「ごめん」と叫んだ。


俺に、気持ちを誤魔化すなと言ったのは君なのに、素直になれと言ったのは君なのに。皆が置いてきぼりにした、独りぼっちの「狩屋君」を、待っていてくれると言ったのは、他でもない、君なのに。その君さえ、俺の事を突き放すんだね。

君なんて、輝クンなんて、嫌い、嫌い、馬鹿、大馬鹿野郎、大ッ嫌いだよ君のことなんて…大ッ嫌い。


「なんで…俺だけ…」


本当は好きだった。輝クンとなら、一緒に居れると思ってた。ガキの戯言と言われればそれまでだけど、愛してたんだ。

愛して止まなかったのが君だった、それだけだ、それだけなのに。


――俺は、君の何を愛せたんだろう?


嘘を吐くのは簡単だ、でも、訂正するのは難しいんだ。それは俺が一番よく知ってる。


黒がかった空の下で、俺はまた独りだった。










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