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放っておけない







今日は霧野が休みだ。珍しく風邪を引いたらしい。朝、本人からそう電話で告げられたので分かった、お大事にと返して電話を切った。
正直、霧野の居ない学校というのは物寂しい。いつも一緒に居たのだから尚更だ。


授業を受けている時も、霧野は大丈夫だろうか、薬飲んだだろうか、などの心配でまともに先生の話しなど聞いていなかった。
霧野は確か、錠剤とかカプセルの薬が苦手だったから、もしかしたら薬を飲まずに寝ているかもしれない。部活終わりにお見舞いにでも行こうか。


もやもやした気持ちで部活へ行く。

切り替えなくては、と思いつつも思考が霧野の方にばかり偏ってしまい、足元に転がってきたボールにも反応出来なかった。


「神童!!ボール!!!」

ハッとなってボールを蹴ろうとしたが空振り。距離感すら捉えられないとは。

「どうした神童、珍しいな」
「あ、…すいません」
「霧野が居ないから調子出ないか?」
「…えっ」
「…冗談だ、気にするな」

三国先輩は苦笑いでゴールへ戻っていく。


結局その後も失敗続きで、部員みんなに心配されてしまった。監督にも集中しろと言われ、腑甲斐なさを感じた。

俺はキャプテンだというのに…。


遣る瀬なくなり、練習が終わった後、一人でユニフォームのままそそくさと校舎の裏まで逃げた。

しゃがみこみ、下を見つめていると自然に目が霞む。視界がゆらゆら揺れて、熱い水がぼたぼた零れる。
心拍数も脈拍も上がり、口から嗚咽が漏れる。止めようと思っても止められない。


「俺は…ダメな奴だ…」

濡れた地面にそう呟くと、俺のではない何か地面を擦る様な音が聞こえて。


「…神童?」

幻聴かと思った。

顔を上げれば、ゆらり揺れる視界の中にピンク色の何かを捉えたんだ。


「…きり、の?」

ピンク色の物体がよいしょ、と俺の高さまで屈み左手で俺の右目から溢れた水を拭った。
間違いなく、それは俺が焦がれてた霧野だった。


「何泣いてんだよ」

呆れた様に頬笑む霧野に俺は今日初めて安心を覚えた。霧野、どうしてここに。途切れ途切れに聞けば、風邪治ったとあっけらかんと答えた。

「俺が居なくて淋しかった?」

意地悪に聞いてくるツインテールの顔はやっぱり意地悪そうで、いつもなら違うと言う俺だけど。

「…あぁ」

短く答えると、意外そうに目を丸くして霧野は頷いた。

霧野は満足したのか、目を細め口角を上げると、しゃがみこんだままの俺をそのまま引き寄せ抱き締めた。

ああ、霧野の匂いだ。
俺の髪の毛が霧野の頬を撫でて、擽ったいなぁ、ピンクが少し揺れて俺は静かに目を閉じた。


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