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愛は投資と違います







去年の今はそれほど大した騒ぎは無かったはずだった。学年が上がるという事は同時に知名度も上げてしまうのだと、今になって気付いた。朝からむずむずした空気が張り詰めているとは思ったが、まさかこれ程大っぴらに黄色い声を浴びる彼を見ることになるとは思わなかった。
女の子というのは、こういうところが非常に怖い。具体的に何と言葉にすればいいのか俺にはまだよく分からない。
ただ一つ断言出来る事がある。

俺の親友は実は隠れファンが多い。


「一週間はおやつ要らないな」

「…う、うむ」

「何だよその顔、お前が紙袋なんて毎度の事じゃないか」


おどけながら霧野は俺の肩を叩いた。教室へ向かう途中だのに、既に持参した紙袋半分くらいまでお菓子が入っていた。それは俺も彼も変わらないのだが、去年の霧野はこんなに貰ってはいなかったはずだ。
去年よりも霧野は顔立ちが綺麗になった気がした。身長も伸びたし体格もしっかりしてきた。どんどん大人っぽくなる霧野に淋しさを覚えつつ内心そんな彼が気になる自分も居た。


「……歯痒いな」

「ん?何が?」

「いや、何でもない」

「…ふぅん?」


教室に着いてからHRまでの間に5、6人は女の子が来て霧野にチョコを手渡し、机の中に誰が入れたか分からぬチョコを幾つか発見し、ついでにいつ入れられたか見当もつかないチョコがバックから出てきた。

霧野は笑って流したけれど、俺だったらそんなの怖すぎて何も言えない。

それから昼休みまでは普通に勉強して(霧野はたまに居眠りする)とりあえず弁当の時間くらいはゆっくりしたいと考えた俺は霧野を引っ張って部室へ逃げるように走った。
寝呆け眼の霧野はへらへらしながらどうしたんだよ、と俺の肩に腕を通してきたが自分でもどうしたのかよく分からなくなったので何も言わないでおいた。


「変な神童」

「…んん」

「何か嫌なことでもあった?」

「嫌なこと…?」


これって、嫌なこと…なのか?
霧野が女の子にモテる事が、そんなに俺に害のあることなのだろうか。
考えれば考える程なんだか馬鹿げてきてしまって、正直どうでもよくなった。


「いや、何も」

「そ、なら良いけど」

「……」


もう尻込みしている暇はない。
制服の内ポケットに手を忍ばせてどうしても霧野に渡さなくてはいけないものを取り出した。


「霧野、これ…」

「ん?なに、チョコ?」

「霧野に渡してくれと頼まれたんだ…あの、本命…らしいぞ?」

「…実は俺も渡さないといけないものが」


そう言って霧野は俺と同じように制服の内ポケットから可愛くラッピングされた包みを取り出した。


「……これは?」

「中身はクッキーだって。あんまり甘くないらしいから、チョコ食べ飽きた時に摘んでくれってよ」

「そうか…俺が甘いものは得意じゃないって知ってるんだな」

「近くで見てるから知ってるんじゃないの?…本命なんだから」

「…そうだな」


ホワイトデーにはお互い三倍返ししないとな。霧野がそう笑うので俺も笑ってやった。










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