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幸せを半分こしにきました





体内焼却炉で生成された熱を口の隙間から吐き出して、薄暗い空に真っ白な雲を作ってやった。その雲はすぐ消えてしまう訳だけども、なんとなく白い空気になったのを見ただけで満足してしまう。
気付けば口からばかり漏れ出てしまっている空気をまた逃すまいと手で包む。無駄だってわかってるけど、でも。


「…はぁ……」

「何だ溜息か?」


びくり。
一体どこから湧いてくるんですか貴方は。音の一つでも立ててから近付いてくださいよ怖いな。まとめて早口で言うと先輩は困ったように眉を下げた。


「悪気はないんだが」

「あったら怒ってますよ」

「んー…、怒ってる訳じゃないんだな」

「もう慣れましたから」


こんなんで一々感情振り乱せるほどおめでたい人間にはなれないって事です、皮肉じゃないですよ?


「いいよ何でも、ほら帰ろ」

「先輩が待たせてたんデショ」

「何か奢ってやるから」

「うわー嬉しー」


もっと嬉しそうにしろよ、棒読みって地味に傷つくからさ。愁傷気味に先輩が肩を落としたのでちっさい良心が少しだけ痛む。でもま、俺が棒読みなのにも訳があるから仕方ないっすよ。

霧野先輩は面倒見がよくて頼りになる素敵な先輩だと思うけど、後輩を弄る癖みたいのがあって正直その部分は非常にめんどくさい。例えるなら、『今年から脱ゆとりなので土曜日も学校がありま〜す。』くらい憂鬱になる。

以前この人の買い物に付き合ってあげた時はお礼に両手一杯のダンゴムシを貰った事がある。ギャグだったのか素だったのか全く読めなかったけど、断りにくい雰囲気だったのでそのまま受け取った。ダンゴムシは現在お日さま園のお庭で大繁殖だよこの野郎。

だから先輩からのお礼とか奢りとか、その類のものには注意を払っておかないとヤバい。いつ地雷を踏むか分からないから。


なぁんて思案していると隣で足をぶらぶらさせながら歩いていた霧野先輩がいつの間にか居ない。あれ?辺りをきょろきょろ見回すとピンクの髪が遠くでぴょこんと揺れていた。
音も気配も唐突に現われたり消えたりするから実はそれも悩みの種の一つだった。


「…何してるんですか」

「狩屋見ろ…焼き芋の屋台が…」

「またしょうもない…」

「お前は知らないだろうけどな…屋台の焼き芋にハズレはないんだっ!!」

「ああ、はいはい」

「おじさん一つ!」

「買うのかよ」


当然と言わんばかりに霧野先輩はVサインを突き出した。間もなくして白い湯気を上げる薩摩芋を受け取った先輩はまた笑顔で俺の元へ戻ってくる。


「あったかい…」

「先輩ってお気楽ですね」

「…あれ、ちっこい芋も入ってる。サービスか?」

「人の話聞いてます?」


おまけでついてきたらしい小さな焼き芋を指先で摘んで、先輩は俺の顔面すれすれまで近付けた。湯気が目に痛い。

「これはお前にやろう」

「…どーも」

「あと、こっちのでかい芋も半分やろう」

「そこまでしなくていいです」

良いんだ、何か奢るって言ったのは俺じゃないか。俺の方が先輩なんだからいい顔させろ。緩やかに捲し立てた霧野先輩は鼻を赤くしながら笑った。

先輩に手渡された、半分こにされた黄金色に輝く薩摩芋が、俺の中にいまいち言い表わせない複雑な感情があることを告げた。

「…冬の幸せってこういうのだよなぁ」

嬉しそうに芋を頬張る先輩の横顔をチラと見てから、手元の芋を一口齧った。悔しいけど不味くなかった。


まだ冬が終わる気配はない。










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