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hope and be fulfilled






この季節になると、帰路に着く頃には大分気温が下がっていて、部活終わりの火照った身体は一気にその熱を大気に奪われていく。
今日もそんな感じで、冷えてしまった身体を擦りながら防寒の為に持ってきたマフラーやら手袋やらを身につけた。幾分かマシになったので、ここから先は時間との勝負だと思い早めに家に帰ることにした。

「お疲れ様でしたー」

部員の皆に挨拶をしてさっさと部室を出る。やっぱ外の空気はヒリヒリする。無理だこれ、早く帰って炬燵に入りたい。

「狩屋くぅーん!」

物凄く嫌な予感 & 鳥肌。この神経を逆撫でするような明るいトーンの声と見なくても分かる後ろから飛んでくるオーラ。間違いなく俺の嫌いなあいつだ。

「……影山、」
「俺も帰りますから…一緒に良いですか!!」
「やだ」

即答ですかぁなんて呑気にけらけら笑うこいつが本当にムカついてイライラして手を出しそうになる。おっと、暴力はダメか。

「俺早く帰りたいの」
「俺もですよ」
「お前歩くの遅いだろ」
「そんな事ないですよっ」

歩くの好きですもんっ!好きとか嫌いとかそういうもんじゃないだろうが。つくづく話が噛み合わない奴だな。だから嫌いなんだこういうタイプは。人の話なんて聞いてないくせに自分の意見と価値観ばかり押し付けて、丸め込んでしたり顔で。
悪気がなくて天然でやってるから更にムカつく。掴み所がなくて、変に飄々としていて、うざい。

「とにかく、ついてこないで」
「えぇ…そんな」

突き放しながら背を向けて歩きだす。こうまで言わないとちょろちょろ付き纏われるのは体験済みだから理解してる。
そもそも俺は他人に優しくするなんて行為に虫酸が走る。というか、そこまでしてあげたい存在と言うべきモノが俺の中にはなくて(寂しい奴だって自分でも思うけれど)。でも周りは俺の事を腫れ物でも扱うかの様に接するし、そういう目で見るし。哀れむというか同情するというか、とにかくそういう類いの。中には本当に俺を助けたいとか愛したいとか純粋な気持ちで接する人も居たけど。やっぱりそうまでする理由って俺が独りだからでしょ?って思うと、自分が可哀想だと本気で考えちゃって、救われたいと思いつつも優しさが痛くて痛くて耐えられない。だったら初めから嫌ってもらえればいい。誰とも関わりを持たなくていい。そう思ってたのに。
まぁそんな壁は崩されたけど。確かに関わりを持ってから、ちょっとだけ良いなとは思ったけど。だからって苦手な分類まで相手したくない。後ろに居る紺色葡萄の奴とか。

「か、狩屋くん…」

うわまだ居たのかよ。ていうかついてきたのかよ。俺本当、ストーカーとか引いちゃう質なんだけど。
眉を下げた影山が申し訳なさそうに俺の目を見て、はぁと白い息を溢しながらまた言った。

「…一緒に帰りましょ」
「あんねぇ…」
「俺、狩屋くんの事、もっと知りたいです…もっと話したいし、一緒に居たいです…」
「……」

だから、ね?鼻頭を赤くしながら首を傾げた影山が目を細めて慈しむ様に俺を見た。この顔はどこかで見た記憶があった。何だっけ、凄く大事な気がするのに。

「狩屋くん…?」
「…っ、勝手にすればっ」
「…はいっ!!」

声でかいよ、ばか。横目で軽く睨んだけど全く気付いてもらえなかった。影山は無邪気に頬笑んで俺の手を握るとそのまま前へ前へと引いていく。手が千切れたらどうするんだ、でもあったかいから、どうでもいいや。
ピリピリした空気で冷えてしまった頬に自分の手を持っていくと、あれ頬の方が冷たい。じゃあ影山の手はもっと温かいのかな。なんてぼやっと考えていると、ふいに忘れかけていた記憶がチラッと顔を出した。

あ、そうだ、さっきのあの顔。昔見た母さんの顔に似てたんだ。確か母さんもあんな風に笑ってた。それで、手も凄く温かかった。はずだ。
思い出したら胸がじんわり熱くなって、こんなん、別に大した事でもないだろうにさ。
そうやって否定したら何だか擽ったくなってきて、影山が狩屋くん?と顔を覗き込んできたのでとどめを刺された気分になった。



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