掴み所が無さすぎるよ 「神童居るかぁ?」 突然、部室のドアが開いたと思えばそこに霧野が立っていて、俺を見つけるなりパアッと顔を明るくして俺の元まで駆け寄ってきた。 「霧野、どうした…」 「今日は何の日でしょうかぁ?」 何を言うかと思えば、わくわく、といった感じに期待しているような霧野が口から紡いだのは謎かけ。 今日は何か特別な事でもあったろうか。 誕生日、イベント、語呂合わせ、記念日、etc。しかしどれにも当てはまらない。 「あと10秒な」 「いやっちょっ!」 「何だよ」 「すまん、さっぱり分からないんだが」 「もうちょっと粘れよ」 「その前に部誌を書かせてくれ」 ちぇー、とつまらなそうに眉を下げる彼女だが、今日はわりと諦めが早くて素直なので助かった。 部誌を書くのもあるが、正直考える余裕が出来たことが有難い。 「それより神童」 「何だ」 「お前まだ着替えてないのか」 「…あぁ」 うっかり忘れていた。というよりも、霧野が入ってきたのでタイミングを逃したと言うべきか。 「早く着替えれば」 「…じゃあ霧野は退散しろよ」 「えっ?」 「えっ?」 いやいや、えっ?じゃないだろう。一応異性だぞ。男子中学生の着替えをガン見だなんて、霧野はそんな変態じゃないだろう。 「…あー、悪い。全然気にしてなかった」 「……とりあえずあっち見てろ」 「んー」 全然気にされない俺って何だ。 つまり異性として見られていないということか。霧野はそれ以上何も言わないしただ部室のドアの方ばかり見ているだけ。何だこの空間は。耐え難い。 「…なぁ霧野」 「なに」 「今日ってさ、その…」 「…やっぱり分からない?」 「…面目ない」 「良いよ、だって今日は何もないから」 ……は? 「何も、ない?」 「うんないよ」 「嘘ついたのか?」 「嘘って訳じゃない…まだ、何もない」 「まだ、?」 そこまで言って、ドアを見つめていた霧野がくるっと向き直ってまたこちらを見る。 「ちょ、着替え中」 「……神童、」 丁度ユニフォームの上を脱いで半裸状態の俺は咄嗟に胸を隠す。あれ?何で隠すんだよ。 霧野は俺の眼だけを見つめて、綺麗な口から静かに一言だけ。 「好き」 嬉しさとか恥じらいとか、何でこのタイミングでとか、そんなの全部通り越して呆然と固まってしまった。部室は無音で、胸を隠した半裸の男と可愛い顔した女の子が真顔で向かい合ってるこのシチュエーションも、今の俺の足りない頭では考えてる余裕もなくて、でもああこの告白は俺が望んでいた事かもしれないと隅の方でチラッと思った。 一方の霧野はと言うと、初めから計画してたんじゃないかと思うくらいの落ち着きぶりを見せた挙げ句、綺麗な口を接ぐんだと思えば碧色の眼を細めて笑った。それは日常的に霧野が見せる笑顔よりも綺麗だと思ったし、鳩尾の辺りを擽られた様な言葉にしづらい気持ちにさせた。 「……霧野、」 俺が呼ぶと霧野はまた微笑んで、スカートの裾をぴっと指でなぞりながらこちらにつかつかと歩み寄る。 最早俺が半裸状態な事はお構い無し、とでも言う様に俺の傍に来た霧野は俺の頬をそっと撫でてからそこに口付けた。 「〜〜っ!!?」 上気するその部分を手で押さえ、涙目で霧野を見るとまたふんわり笑う。 「さて神童、問題です」 意地悪く笑う彼女はどこか楽しんでいるようで、大人っぽい性格から成長しきらない子供の部分が見え隠れしているようだ。 「今日は何の日でしょうかぁ?」 質が悪い、と呆れながら笑ってしまった。 |