イナGO | ナノ

寡黙カプセル





たまには部活をサボって遊びに行きたい。そう呟くと目の前に居た先輩が そうだな、と返してくれた。
口数が少ない人だから たったそれだけの返答が妙に嬉しい。

その場の雰囲気を読んでの相槌だとばかり思っていたが、俺が先刻呟いた事は只今実行されていた。
先輩と二人で部活をサボって電車に乗り込み 少し遠くまで来てしまった。
俺にはあまり馴染みない場所だけど 先輩は俺の前を無言で歩き続けた。

気が付いたら潮の匂いがしていて、何年ぶりだか分からないが 海に来たようだ。
先輩が砂浜に腰を下ろしたので俺も倣って隣に座る。


「なんだ 入らないのか?」

不思議そうに見つめてくる先輩に胸がどきりとする。あ、本当に綺麗な顔。

「だって制服じゃないですか」

「…ふぅん」

曖昧な返答をする先輩は苦手だ。
会話が続かないし。いや毎回そうだけど。
クールというか、無口というか。
整いすぎた顔を歪める先輩なんて見たことない。別に見たいと思わないけど。

だって俺はこの顔好きだし。
人によっちゃあ 賺した印象を受けるかもしれないけれど やっぱりそれ以上に美人だからずっと見ていたいと思う。


「先輩、」

「…」

「何で一緒にサボってくれたんですか?」


いつもならキャプテンと真っ先に部室に行って自主練始めてる貴方が。
俺なんかとサボってくれるなんて。


「…ま 息抜き」

俺に目線を寄越さず言った。
相変わらずの無表情。

「先輩ってバカですね…」

「…うるせ」

「断って良かったんですよ」

「…次から断る」


先輩は立ち上がって砂を叩き落とすと俺に手を差し伸べる。

「…ほら、」

やっぱりこの人優しいな。
差し伸べられた手を掴む。血が通っているのに少し冷えたそれは俺に安心感を与えて 同時に息が詰まりそうになる。


「…先輩、」

「ん」

「無理しなくて、良いですよ」

「…あ そ」

「キャプテンが好きなら、それで良いですから…」

込み上げる何かを必死に抑えてそこまで言う。
先輩の手を掴みながら 立ち上がれない俺は地面を睨む。


「…俺は 確かに神童が好きかもしれない」

「……」

「でも お前と居ても楽しい」

「…先輩っ」

「お前の事 嫌いじゃない」


顔を上げると真っ直ぐに俺を見つめるコバルトブルーの瞳が薄く膜を張った様に輝いていた。

海の近くは目が痛いな 空いた片方の手で目を擦ると先輩は俺を一気に立ち上がらせる。


「…帰るぞ」

やっぱり無表情なまま、先輩は俺の手を引く。

普段無口で俺の話も聞いてるんだか聞いてないんだか全く分からないけど。
こういう時に自分の気持ちを相手にそのまま伝えられるこの人はやっぱり凄いと思う。

潮風に当たってもさらさらなピンクの髪を揺らして 先輩は一度だけ振り返った。


「次は休みの日にしてくれよ」


あ、はい。

咄嗟にそう答えた。
やっぱり先輩 貴方は優しすぎますよ。





[ top ]

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -