晴れ渡る青空。千切れた雲は綿のようにふわふわと空に浮いていた。しかしそんな風景に似合わない暑さの今日。すっかり夏らしくなってきて、俺から少し前を歩いている彼も額に浮く汗を拭う。2人だけの散歩道。
「地球温暖化だね」
呟くように言えば
「そうだな」
短い答えが返された。
「もうすぐ夏だよ」
もう一度声を出せば
「そうだな」
まるで同じ返事が来る。別にいいけど。
「剣城くんは、夏好き?」
「そんな好きじゃねえよ。暑いの苦手だし」
「ふうん。でもたしかに、剣城くんは夏って感じじゃないよな」
「…どういう意味だ?」
「さぁ?あ、でも天馬くんは夏っぽい」
「…」
納得したのか想像しているのか意味がわからないのか、剣城くんが黙る。もしかしたら違うことを考えているのかもしれないけど。
「俺も夏はあんまり好きじゃないんだ。暑すぎて溶けそうになる」
「最近の暑さは特に酷いって言っていたな」
「やっぱり?だから人が死ぬんだね」
汗が、額から流れてアスファルトに落ちる。今日は久しぶりの夏日らしい。
「剣城くんはさあ、好きなものあるの?」
「夏関係で?」
「いや、なんかあるなら別になんでもいいんだけど」
ジリジリと太陽に焦がされている俺たちは、溶けた足を引きずりながらも懸命に歩き続ける。目的地まで、まだかかりそうだ。
「…とりあえず、サッカー」
「サッカー関係は無しで!」
「てめぇ…」
ぶちぶち文句言いながらも、剣城くんは考えてくれているみたいだ。
(俺は何が好きかな…)
ふと、彼に尋ねて思い考える。
(お日さま園にはなんだかんだ感謝してるし、まあ…好きかな。あとは甘いもんも好きだ。そんで…)
いろいろ考えている時、
「俺、お前の眼が好き」
「は?」
「金色に光って、ビー玉みてぇだ」
変わらない口調、いつも通りの声音で剣城くんは言う。
「あと、髪も好き。サラサラしてて触り心地いいし色も綺麗で」
「もう良いよ!ありがとう剣城くん!!」
「何なんだよ自分から聞いておきながら…」
ぼやきながら振り向いた彼は、俺を見て始めは目を丸くしてから、少し口元を歪めた。
「…そう、意外に誉められ慣れてないところも好きだ」
それだけ言うと、保冷材と共にペットボトルに巻きつけていた冷たいタオルを俺の頭に乗せて、また彼が歩いて行く。
(…ちくしょー)
タオルを顔に押しつけ呟いた。今のはズルすぎる。卑怯だ。
「…剣城くん」
「ん?」
呼び止め、こちらをゆっくり振り向いた彼は、眩しすぎる太陽によりうっすらと額に汗をかいていた。
「俺、剣城くんの髪が好き」
「あ?」
「夜空を溶かした藍色の髪が、剣城くんの優しいところに似てて好き」
生ぬるい風が俺たちの間を通り抜ける。
「…俺、剣城くんが好きだよ」
俺の好きなもの。無関心なふりして優しい、剣城くん。
「…俺は、狩屋が好きだ」
応えるように告げる剣城くんは、笑ってはいなかった。でも、柔らかい目をしていて、それだけで俺は嬉しくなる。
俺は駆け出し、彼の隣に並んで歩く。
目的地の店まで、あと5分。
好きなものはなんですか?
(ありのままの君が好き)
−−−−−−−−−−
コニーちゃん誕生日おめでとうございます!コニーちゃんの明るさを京マサでイメージしてみました