雨宮太陽は、きっと綺麗な人間なんだろうと思う。

少なくとも、自分よりは。

病院という隔離された世界は、確かに不便で面倒だろう。それでも外よりはマシなんじゃないか。

だって、護られている。

医師に、看護師に護られている世界なんだ。患っている人間に聞かれたら怒鳴られてもおかしくないだろうが、真剣にそう思う。

外の世界は、確かに自由だ。驚くほど自由で、信じられないほど残酷だ。

ニュースにはならなくとも、確かに事件は起きている。まだ幼い子どもの間でさえいじめが起こり、憎み憎まれ、汚れていく。汚れは簡単におちなくて一生抱き続けるものもあるだろう。いじめる人間の中には、自らの楽しみの為だけに他人を傷つけるのだっているのだ。

甘いあまいチョコレートを貪るように、人をいたぶり悦に浸る。

外の世界は護ってくれない。汚れからも、痛みからも。

「それでも、僕は大和くんが綺麗だと思うよ」

雨宮は、微笑みながら言う。静かな微笑みは、俺の心をざわつかせた。

「…大和くんが来てくれると、僕、すごく嬉しいんだ。僕の知らないこといろいろ教えてくれるし、見せてくれたりするから」

「君が前に読んでいた本を見て、世の中にはいろんな本が出てるのを知った」

「君が好きだって言っていた歌を聴いて、世の中にはいろんな音楽が溢れているのを知った」

「他にももっと、いろんなものがあるのを改めて知ることができた」

雨宮は不意に言葉を切ると、柔らかく瞳を細め、窓の外を見つめる。優しい眼だった。

「でもね、何より嬉しかったのは、それを僕に伝えてくれる君が、とても楽しそうだったこと」

「…俺?」

つい声を洩らすと、アイツは外に向けていた視線を俺に移してやはり微笑みながら小さく頷いた。

「楽しそうな君は、キラキラ輝いて見えるんだ。そんな大和くんを見るのが僕はとても嬉しかった」

「『あぁ、世界はこんなにも綺麗なんだ』って思えたから」

雨宮は、陽に焼けていない白い手を俺の浅黒い手のひらに重ねて、そっと握った。

「僕は、大和くんが綺麗だと思うよ。そしてそのキラキラした輝きは、きっと世界にも通じている。だって、今大和くんがこんなにも綺麗なんだもの!」

握られた手に力がこめられ、雨宮は澄みきった蒼い海に似た瞳を輝かせ、先ほどまでの微笑みとは違う幼い子どものような満開の笑顔を見せる。

「…お前…」

「ん?」

「恐ろしいくらいばか正直だな」

素直な感想を述べると、アイツはずいぶんと楽し気にクスクスと笑い

「それは大和くんも一緒でしょ」

歌うように言葉を紡いだ。


痛みを孕む輝き



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『いじめ、チョコレート、音楽』を使って小説を書けとのことでしたので!
ツイッター診断からお借りしました



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