気の滅入る夏の日差しが続いた日々。しかしもう8月も下旬。夕方になれば、異常な暑さも収まりなかなか過ごしやすい気温になるそんな時。西浦高校野球部ピッチャーの三橋廉は、顎に伝う汗を拭うこともしないまま、ただ教室の入口で立ちすくんでいた。大きな蜂蜜色の瞳は、教室の中で唯一埋まっている席に向けられている。

そこには、彼のバッテリーである阿部隆也がいた。

静かな空間に響く穏やかな呼吸から、彼が眠っているのは容易にわかった。では何故三橋は固まっているのか。それは、彼が無防備な阿部の姿を見れたことにただただ驚いたから。

(あ、阿部くん が 寝て る)

心臓部でぎゅっと拳を握り、音を立てないように息も殺して教室へ足を踏み入れた。ゆっくり、ゆっくり。踏みしめながら、阿部の寝ている席までたどり着く。三橋は椅子には座らず、阿部の机の脇にしゃがみこんで机の端に控えめに指を置いて彼の寝顔を見つめた。
いつも気難しい表情をしている彼は、寝ていると安らかな表情になるらしい。眉間の皺もないその顔を、三橋は数えるくらいしか見たことがなかった。

(阿部くん、の 顔…やさ しい)

三橋は安らかな表情の阿部につられたように、ふわりと柔らかく微笑んだ。

「ん、…」

阿部が小さく呻いた。三橋はすぐに立ち上がり若干顔を青ざめたが、阿部はまた静かに寝息を立て始める。寝ぼけていたようだ。安心したようにホッと息を吐いた三橋は、またおずおずと近づいて阿部を見つめる。

(起きない、かな…)

頬を赤らめながらそっと阿部に顔を近づけると、消え入りそうな声で

「すき で、す」

そう言い、掠めるくらいの口づけを阿部に送った。

(…な にしてるんだ、俺…っ!?)

自分のしたことの恥ずかしさから顔を先ほどよりも真っ赤にして、三橋は阿部から距離をとって口元を両手で覆った。

(あ、ああ 阿部くんの、ね 寝込み、襲っ…!)

興奮と恥ずかしさと申し訳なさで混乱している三橋は、涙目になりながら顔を手で覆い教室からパタパタと走って出ていった。

「…あいつ…」

三橋が立ち去った教室から、呻くような呟きが聞こえた。眠っていた阿部が、頭を掻きながら体を起こす。本当は一度呻いた時に目を覚ましていた彼は、三橋からされたキスの感覚に驚いた。

(柔らかかった…)

天井を見上げて何とはなしに自分の唇に指を這わせ、目を瞑る。

『すき で、す』

赤く染まった頬に、ほんのり色づいた蜂蜜色の瞳。ゆるく微笑んだ顔。

「俺も好きだっつの…」

赤くなっていく顔を隠すように手を額に翳し、走り去った彼へと悔しそうに呟いた。



キミのスキと出会った



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青春を謳歌するのが似合う2人ですね


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